力のない聖女は騎士と吸血鬼に愛される

 私、浅灘由比加(あさなだ ゆいか)は、本日をもって十八歳を迎えました。



「「「ハッピーバースデー、由比加!」」」



 両親と、お隣に住んでいる幼馴染の古谷真守(ふるや まもる)に囲まれて、私は誕生日ケーキのろうそくを吹き消した。

 十八本のろうそくの火がいっぺんに消えた。よーし、いい年になりそうだ。

 ホールケーキの横には、柄に桃色のリボンの巻かれた大きな銀色のナイフがある。

 私はケーキを取り分けるためにナイフを掴み、ケーキの真ん中に狙いを定めた。



「ちょ、ちょっと待って、由比加!」



 そう叫んだのはお母さんだった。

 なんかマズいことしたかな、と思って私は固まる。



「いったんナイフを置こうか」



 お父さんは両手のひらを下に向けて、ゆっくりとステイの合図をする。

 私はそれに従ってナイフを元の位置に戻した。

 お父さんとお母さん、それと真守のホッとした顔が見えた。



「十八歳の誕生日。とーっても、おめでたいんだけれど、由比加に一つ言っておかないといけないことがあるの」

「由比加、実はお前は聖女の血を引いているんだ」

「……聖女?」



 聞きなれない単語に私は首を傾げた。

 お父さんとお母さんは互いに目を見合わせた。

 お父さんが口を開く。



「聖女っていうのは、特別な力を持つ女性のことなんだ。でも、世代が変わるうちにその血が薄まってきてしまっていて、今じゃ特別な力なんて無くなってしまっている」

「でもね、その血の悪いところは薄まっていなくって、魔の者にとっては、美味しい血のままなの」

「魔の者? 美味しい血?」



 私の頭にはてなが浮かぶ。

 聞いているだけだった真守が言葉を繋げた。



「要は吸血鬼にとっては、由比加は極上の餌だってことだよ」

「吸血鬼なんて、実在するの?」

「「「実在する」」」



 三人が同時に口を揃えた。



「十八歳になると、聖女の血が覚醒する。で、俺はそんな由比加を守るための騎士なんだ」



 真守は、サーベルを取り出して胸の前に掲げてみせた。

 真守が小さい頃からフェンシングをやっているのは知っている。

 でも、それが私のためだなんて初耳だ。



「なんで、ずっと黙っていたの?」



 私は三人の顔を見回す。



「だって、十八歳になったら魔の者に襲われるようになるなんて、怖くて知りたくないじゃない」



 お母さんが震えるように両腕を抱いた。



「お父さんもお母さんを守る騎士だったんだよ」



 お父さんはお母さんの肩を自分の方に寄せた。



「今日からは俺が由比加を守るから」



 真守が真剣な眼差しで私を見つめた。

 サラサラな黒髪の前髪から覗く真守の目は、いつもキラキラしている。

 だから、見つめられると眩しすぎてつい顔を逸らしちゃうんだよね。

 最近の真守はモデルみたいにカッコよくなってきたし、どう返していいか分からず俯く。

 そんな中で、お父さんが銀のナイフを両手に取って私に手渡してきた。



「この銀のナイフは護身用」

「……冗談だよね?」



 しかし、それが冗談じゃないことを、この後、私は身をもって知ることになるのである。