パチパチと瞬きをしてみる 


「(えっと)」
出そうとした声は掠れて喉の奥に張り付いた


身体が鉛を入れられたみたいに重くダルい
頭が締め付けられるような痛みに瞬きのたび涙が目尻に流れる


・・・熱、かな


それよりも、此処はどこだろう


寝心地の良いベッドに寝ていること以外、起き上がれそうもない私に知る術はないけれど

安心する匂いに包まれているだけで“良い”と思った


頭がボウとして


目を閉じるだけで、また意識が水の底に沈むよう


それに抗う気力もなくて


そっと意識を手放した




⬜︎⬜︎⬜︎



「・・・起きたか」


次に目を覚ますと間近にハッチが見えた


「・・・はい」


「疲れたんだろ、微熱があった」


ハッチの手が前髪を上げてオデコに触れる

その手の冷たさに目を細めた


「此処は?」


「普段俺が暮らしてる家」


「風吾さんは?」


「風吾は呼んでねぇ。それより
頭の痛いのはどうだ?」


そういえば、一度目覚めた時に感じた痛みは引いている


「随分楽になってます」


「ん・・・。薬を飲ませたからな」


飲んだ記憶もないけれど、発熱に気付いて解熱剤を飲ませてくれるとは気が利く


「ありがとうございます」


「今日一日疲れたからな、身体がビックリしたんだろ」


「そうかもしれません」


「てか、敬語に丸戻りじゃねぇか」


「あ、と、ごめん、ね?」


「嘘だ、身体がしんどい時は許してやるから楽な方を選べばいい」


「今、何時ですか?」


「今は夜の十時を過ぎたあたり」


「・・・え、そんなに寝てたんですか」


「仕方ねぇだろ、知恵熱なんだから」


「なんと、知恵熱と」


「お子ちゃま花恋だからな、ま、そこは甘んじて受け入れろ」


「ハッチは時々辛辣意地悪ですよね」


「何気に貶したよな」


「まぁ、貶しましたかね」


「コラッ」


「フフ」


私がベッドに寝ていて、脇にハッチが座っているのは
入院中もよく見たシチュエーションだけど


なにより落ち着いているのは、弱いダウンライトの光と部屋を包み込むハッチの匂いの所為だろう


「起きられそうか?お腹が空いてるならと雑炊を作ってみたが」


「え、ハッチが?」


「味は保証しないがな」


「嬉しいです。なんか、食欲が出てきました」


「おっ、良い傾向だな。じゃあ起こしてやる」


ハッチは右手を繋ぐと反対の手を背中に差し込んでフワリと起こしてくれた


「気持ち悪くねぇか?」


「うん。平気です」


「そか、良かった」


立ち上がると部屋の中がよく見えた


「此処もベッドは大きいんですね」


「小さいのは寝た気がしねぇ」


「私なら六人は寝られますね」


「花恋は一人で十分だ」


手を引かれて寝室を出ると、広いリビングルームに出た


「ソファが大きい」


「脚が長いからな」


「嫌味」


「ん?何か言ったか?」


「い、え、なにも」


ケラケラと笑うハッチはダイニングテーブルもあるのに私をソファに座らせた


「こっちの方が楽だろ」


クシャリと頭を撫でてキッチンへと足を向けた