コンコン


また聞こえたノック音に向日葵さんは一瞬で顔を歪めると


「誰?」


一歩も動かないまま扉に向かって声をかけた


「僕だよ」


扉を開いたのは向日葵さんのお兄さんだった


そして、その後ろからハッチも入ってきた

向かい側のソファに二人が腰掛けると


「どうなったの?」


向日葵さんは私の右手をギュッと握った


「婆ちゃんが乱入してきて」


「・・・え、なんで?」


「向日葵の怒鳴ってる声が聞こえたらしい」


「・・・それで?」


「父さんに話を聞いて、和哉を怒鳴った」


「ザマーミロだわ」


「こら向日葵、口が悪いよ」


「で?飛鳥婆はなんて?」


「向日葵と同じこと言った」


「でしょ、でしょ、本当和哉ムカつく」


兄妹の会話をハッチと二人で聞いていたんだけど

ここでハッチが口を開いた


「向日葵、ありがとうな」


それが向日葵さんには衝撃だったらしく


ポカンと口を開いたまま固まってしまった


「向日葵さん?大丈夫ですか」


繋いだままの手を振っていると、やっと視線が交わった


「あ、あ、大丈夫。永飛君に話しかけられるなんて思ってなかったから驚いただけ」


「酷ぇ言われようだな」


「えっと、そうじゃなくて、その」


慌てた向日葵さんもやっぱり可愛い


「花恋の味方でいてくれてありがとな
俺だけじゃ守ってやれねぇ時もあるから向日葵の存在は助かる」


ハッチはそう言うと向日葵さんに頭を下げた


「花恋、これって夢?」


「どういうことですか?」


「無口無愛想他人に興味なしの永飛君が私に頭を下げてるんだもの」


信じられないと首を振る向日葵さんに


「ブッ」


堪えきれず吹き出すお兄さん


そして


「向日葵の頭ん中、俺の評価が低すぎねぇか」


ハッチは苦笑い


結局、ケラケラと笑うお兄さんに釣られて四人で笑った


「そろそろ帰るか、花恋」


ハッチに声をかけられて気付けば随分と時が進んでいた


「あ、うん。向日葵さん今日は色々とありがとうございました」


「和哉のことは別にして。家にはまた、遊びに来てね」


「はい」


「花恋に会いたければ家に来るといい」


二人の会話にハッチが入って


「あ〜、その手もあったか」


自然と話が繋がっていく


玄関まで見送りに出てくれたお兄さんの元に女の人が駆け寄ってきた


「朝陽」


「こら、奏は走っちゃだめだろ?」


「あ、そうだった」


短いやり取りでお兄さんの奥さんだと家系図が繋がる


「朝陽、紹介して」


「あぁ、花恋ちゃん。僕の妻の奏だよ
花恋ちゃんとは一歳違いだから、良かったら向日葵と同様に仲良くして欲しいな」


奏さんを見つめるお兄さんの目が優しくて笑顔になる


「青山花恋です。こちらこそ宜しくお願いします」


丁寧に頭を下げようとすると
「キャァ、なんて可愛いの」奏さんはガバっと抱きついてきた


「ヴッ」
「こら、奏、花恋ちゃんは怪我してる」
「テメェ、奏」
「奏ちゃん、やめてー」


痛みに声が出るのと三人が動くのが同時だった