side 永飛



見送ったばかりなのに
もう会いたい


ガレージに立ち尽くす俺に
遠巻きに視線が集まっている


「チッ」


外の掃除をしてる庭番がニヤついていて舌打ちが出た


「・・・っ」


途端に青ざめる様子を見ながら屋敷に戻る


一時間が過ぎた頃、どうにも我慢ができなくて花恋にスタンプを押してみる


「・・・ん」


どれだけ待っても既読にならないそれに遂に電話をかけてしまった


[お客様のお掛けになった番号は電波の届かない場所に・・・]



「・・・ハァ」


無機質なアナウンスに肩が落ちる


花恋のことだから故意に電源を落としたとは考えられず、間違いなく充電忘れだろう

導き出した答えに気が重い


花恋が迎えを思い出したタイミングしか連絡を取れない訳でもないが

せっかくの友達との時間を邪魔したくもない


モヤモヤする気分のままベッドに寝転がっていると、右手に持ったままのスマホが震えた


[親父から話がある]


・・・なんだ


朝陽からのメッセージは二ノ組の組長からの呼び出し


花恋のこと以外で思い当たる節はないとすれば・・・


若干の嫌な予感を抱えて起き上がると部屋を出た


車に乗り込むと自然に視線が助手席に移った

この車がキッカケで花恋の記憶が戻ったのが数時間前


ポロポロと溢した涙を思い出して胸が苦しい


車を走らせながら繋がらないだろう花恋のスマホを鳴らしてみる


無機質なアナウンスを聞くだけで
早く会いたいとアクセルを踏み込む


そして・・・


数回目で奇跡的に繋がった


「花恋っ」


慌てて勢いよく名前を呼ぶ


(はいっ)


同じように焦った花恋の声に少しだけホッとした

充電切れと聞いて、予測通りなことに安堵した


「話できたか?」


親父の呼び出しなんかサッと終わらせて花恋を連れて帰りたい


(ハッチが想像もつかないような展開になって)


それが叶わないことが呼び出しの理由なのだろう


郡の家に着くと朝陽が外で待っていた


「態々の出迎え気持ち悪りぃな」


「酷い言われようだな」


「花恋は?」


「向日葵の部屋」


「そうか」


通されたのは洋風な家の奥
唯一“和”の造りの座敷だった


「ご無沙汰してます」


「堅苦しいの無しな」


朝陽と雰囲気だけはよく似た親父と
いつもは後方で控えている側近の近藤が並んでいる


その真意を探っている俺に


「花恋ちゃんのことだ」


急に核心をついてきた親父は
目の前に書類を広げた


「・・・っ!これは」


「花恋ちゃんは和哉の娘なんだ」


想定を遥かに超えた話に焦る


「・・・でも、花恋は」


納得いかない思いが口を突いて出る


「そこは、自分が話します」


近藤は静かに頭を下げると真っ直ぐ俺を見た