「ほら、出てっ」


ハッチの名前が表示されたのを見て
向日葵さんが急かす


指でスライドさせて耳に当てると


(花恋っ)


焦ったハッチの声が聞こえた


「はいっ」


(どうして電源を切った)


「切ったんじゃなくて充電切れでした」


(やっぱりそうか)


萎むように勢いをなくしたハッチの声に随分心配させたことを知る


(悪りぃ、大きな声を出して)


「大丈夫」


(話できたか?)


「ハッチが想像もつかないような展開になって」


(ん?)


「帰ってから説明、するね」


(あぁ、分かった。でもな
朝陽から呼び出しがあったから
既にそっちに向かってるんだ)


間違いなく父の話だ


(花恋?)


「あ、と、了解です」


(なんだそれ、まぁいい。後でな)


「はい。またあとで」


通話を終えると向日葵さんの顔が騒がしかった


「キャーーー花恋っ」


ガバっと抱きついてこられたから身構えるけど
そこは配慮されているようで

力は入っていなかった


「本当に付き合ってるのね」


「はい」


「なんだか私もドキドキしてきた」


乙女に両手を胸の前で組んだ向日葵さんは目を閉じて身悶えしている


「お兄さんに呼び出されたとかで此処に向かってるらしいです」


「え、永飛君来るの」


「はい」


「あ〜きっと和哉のことを話すのにパパが呼び出したんだと思うよ」


「どう考えてもそうですよね」


「じゃあ部屋で待っていれば永飛君来るわね」


「来たことあるんですか?」


「来るわけ無いじゃない。あの永飛君なのよっ」


「あ〜、あのハッチですね」


説明を受けた無口無愛想他人に興味無しのハッチのことだ


「でもなんか、実感してきた
これから集まりでも花恋と一緒って嬉しい」


「集まり、ですか?」


「白夜会の集まりがあるのよ、偶にね
パーティーだってあるし」


「パーティー」


「ドレスを着る退屈なパーティーよ」


「ドレスも着るんですね」


百五十五センチしかない私に合うドレスが想像できない


「ドレスは優羽ちゃんが作ってくれるから、それ自体は嬉しいんだけどね」


「向日葵さんの彼氏さんのお母さん」


「え、知ってるの?・・・んと。相関図でお勉強したんだっけ」


「そうです。まだ細部は完璧ではないですが
向日葵さんから頂いたお下がりもそのブランドでしたね
父の名前が向日葵さんのお父さんの脇にあったことも思い出しました」


「流石Sクラス」


「記憶力だけですよ」


「新しい人を覚えるのも大変なのに
花恋は永飛君の為に覚えようとしてるんだから流石だよ」


「ありがとうございます」


「ま、和哉の娘としても有効」


女子特有のコロコロ変わる話題に
いつしか時を忘れていた