隣で聞いていたとは思うけれど
向日葵さんには私の口から全て話したくて改めて向き合った


「和哉はね、小さい頃から私が沢山わがままを言っても
全部全部笑って聞いてくれたの
きっと同い年の花恋のことを私に重ねてたんだと思うよ」


「そうだと嬉しいです」


「これからきっと溺愛パパになるわね」


「・・・想像もつかないですけど」


「それより、学校へはギプスが外れるまで来ないの?」


「いえ、もう少し身体が動かせるようになったら行くつもりです」


「そっか、私は嬉しいけど無理しないでね」


「ありがとうございます」


窓の外ばかりを見てると言った向日葵さん
Dクラスの席順が窓際からなのは
向日葵さんへの配慮かもしれない


「花恋が休んでる間に席替えしたの」


「そうなんですね」


「次も花恋と前後だからね」


「忖度、でしょうか」


「ま、そこは否定しないわ」


「「フフ」」


窓際なのは変わらないけれど
向日葵さんは一番後ろになったらしい


「卒業まで変わらないわよ?」


「それはもの凄い力が発動ですね」


「それに」


「それに?」


「第二保健室に花恋も入れるからね」


「えっと、保健室がもう一つあると?」


「あるわよ?特別教室が並ぶエリアにね
元々、奏ちゃんのママのために作られたんだって」


「あ、理解できました」


「指紋認証で入れるからね
あ、花恋ももう認証してるから」


「突っ込んで良いですかね」


「良いわよ?」


「私の指紋はいつどこで取られたのでしょうか」


「あ〜、それは朝陽の仕業ね」


「お兄さんは忍者か何かですか?」


「二ノ組の若頭よ」


「あ・・・そうでしたね」


そのひと言で納得するのもどうかとは思うけど
できないことはないらしいと聞いたからには


私の指紋なんて瞬殺だろう


「今日はいつまで居られるの?」


「話が済んだらハッチが迎えに来てくれる約束です」


「じゃあ話を終わらせなければ
いつまでも居られるってことよね」


「・・・それは」


「フフ、嘘よ、永飛君に恨まれちゃう」


「恨みはしないと思いますけど
拗ねてる顔は想像できます」


「えーーーっ、全然想像できないんだけど」


「フフ」


入院した日から毎日お見舞いに来てくれていたのに
向日葵さんとのお喋りは尽きない


「でも、全然鳴らないわね」


「え?」


「スマホよ、メッセージとか
鬼電とか、そこまで独占欲があるのに
今日は大丈夫なのね」


「・・・っ!」


向日葵さんから指摘されてやっと
ポシェットに入れたままのスマホに意識がいった


取り出してみると・・・


「・・・ん?」


画面は特に表示もなく真っ暗で無反応


「花恋、それ!充電切れなんじゃない?」


「・・・え」


同じ機種だという向日葵さんがコードに繋いでくれた


「あ」


そして浮かび上がるフルーツマーク


待ち受け画面が表示された途端
手のひらで唸り声を上げた