大切な友達にこんなは顔させたくない



「これでも“仁義なき戦争”のファンなんですよ、私」


ちょっと戯けてみる


「・・・ブッ、なによっ花恋」


向日葵さんは吹き出したと思ったら、そのまま泣きだした


「ありがとう、花恋」


向日葵さんの涙を理解することは難しいけれど

友達としてできることは


「どういたしまして」


一緒にいること


コンコン


「お待たせ、え、向日葵」


お茶を運んできてくれたお母さんは
泣いている向日葵さんを見て固まった


「なんでも、ないの」


「そうなの?」


「友達がまた来てくれたから」


「フフ、そうね
さぁ、花恋ちゃん。チーズケーキは好き?」


可愛らしいワゴンに乗っているのは
薔薇模様のティーポットとカップ
一口サイズのチーズケーキは十個も並んでいる


「好きです」


「良かった。此処のチーズケーキね
みんな大好きなの」


「ありがとうございます」


「ほら、食べよう、花恋」


窓際のテーブルセットに移動して
向日葵さんと向かい合う


向日葵さんのお婆ちゃんが大好物だというチーズケーキの話を聞かせてくれた


「チーズケーキ専門店のsorrisoは
このご時世にネット販売がないの」


「私もこのご時世に追いついたのが
つい最近ですけどね」


「しかも開店して一時間後には完売なの」


「それをこんなに沢山食べても良いんですか?」


行列店は制限もありそうで聞いてみたけれど


「全然大丈夫」


向日葵さんは気にしてなさそう


「気に入ったら永飛君に連れて行って貰ったら?」


「近いんですか?」


「ううん。遠い郊外店舗なの」


「話してみますね」


「もしかして永飛君とも敬語とか言わないよね?」


「記憶が戻ってから、敬語を外す努力中です」


「記憶戻ったの?」


「それがですね・・・今日戻りました」


「今日っ!!」


怪我をした時の記憶だけがないと思っていたのに

失くしていたのはハッチの記憶だったことも説明した


「なんなの、その女」


「えっと、落ち着いてください」


「これが落ち着いていられるかっての」


スマホを操作した向日葵さんは
立ち上がって部屋の扉を開けた


「・・・っ」


そこに立っていたのはお兄さんで
「説明して」と詰め寄る向日葵さんを宥めながら部屋に入ってきた


「花恋が足を滑らせて階段から落ちたんじゃなかったの?
女に突き落とされたってどういうことよっ
花恋が永飛君の相手なら護衛がついてたんでしょ?」


「一瞬のことで遠巻きのNightも階段下の目も間に合わなかった」


「そんなに近くにいたのに花恋に怪我をさせるなんて許せないっ」


ヒートアップする向日葵さんを止めるために立ち上がると、また扉が開いた