「朝陽に連絡してみる」



向日葵さんと会うセッティングをハッチがしてくれるらしい


長い指がスマホの画面を滑ること数回


「これから迎えに来る」


いきなり時はきた


「向日葵さんのお兄さんが迎えに?」


「不服だが、花恋だけを連れて行くらしい」


「不服、なの?」


眉を寄せた意味が分からない


「花恋の話が済んだら、俺も行くから」


どうやら一緒に行けないことが不服らしい


「笑ってんなよ」


「だって」


「他の男の車に乗るとか。もう既に浮気だからな」


「・・・え、じゃあバスで行った方が良い、かな」


「チッ、だから不服なんだ
不服だけど許すから朝陽の車に乗ってけ」


「フフ、分かりました」


「だから、笑ってんなよ」


ちょっぴり拗ねたようなハッチがなんだか可愛い

母性本能をくすぐられるってこういうことなのかな

ドキドキ煩い心臓を心配しながら
また相関図を眺めてお喋りしているうちに

時間は過ぎていたようで


コンコン
ノックと共に向日葵さんのお兄さんが登場した


「花恋ちゃん退院おめでとう」


「ありがとうございます」


「なんだか・・・ね」


いつもと同じ柔らかな物腰のお兄さんさんは
ハッチの部屋に私がいることが「不思議」だと言った


「無愛想で気が利かないし
優しくもなければ、目も合わせないって有名だけど、大丈夫?」


更には笑顔で悪口を言い切った


「チッ」


それに舌打ちしか返さないハッチ
てことは・・・本当のこと?


「えっと、ハッチのことですよね?」


「うん。そうだよ」


めちゃくちゃイケメンな笑顔にたじろぐ


「噂は知りませんけど・・・
私の前では百面相かと思うくらい表情豊かですし
いつも私を気遣ってくれる優しい人です」


素直な気持ちを伝えたところで


「ブッ」


お兄さんはとうとう吹き出した


・・・え、笑う要素ってあった?


「笑うなクソ、花恋限定に決まってんだろーが」


そこに素早く突っ込んだハッチと
ケラケラと笑うお兄さん


とても仲が良くて、生まれる前から一緒の意味も納得できた


「じゃあ花恋ちゃん行こうか」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「花恋、朝陽とは無理に話すことないからな
なんなら視界に入れなくて良いぞ」


「ブッ」


「直ぐに迎えに行くからな」


「じゃあ、待ってるね」


「あぁ」


いつものように頭を撫でるハッチは

ネジが飛んだみたいに笑いが止まらないお兄さんを完全無視で

駐車場に止まるお兄さんの車まで付き添ってくれた


「行ってきます」


「あとでな」


「うん」


名残り惜しそうに開けた窓から手を入れて頭を撫でるハッチは

最後は諦めたように手を引っ込めた


「あんな永飛、初めて見たよ」


走り始めた車の中で
寂しい気持ちが膨らむのを必死で抑えた