「ブハハハハハハハハ、ククク
な、んじゃ、それブッ、フハハ」


左手でお腹を押さえて右手は読書スペースのテーブルを叩きながら


時に目尻の涙を拭いながらハッチは笑い続けた


「そんなに笑わなくても」


口を尖らせてしまったのは仕方ない


「これが笑わずにいられるかってんだ」


「だって此処のマスターキーは私が持ってるんですっ
それなのに寝てるとか、壁をすり抜けた人外としか思えなかったから」


「あー、そういうことね、分かった
実は俺も二年までそれ渡されてた」


「ハッチも?」


「三年になる前に理事長から返せって言われてな
ムカついたから合鍵作ってやったんだ」


そう言ってポケットから出してきたのは
ハッチが勝手に作ったという

マスターキーとは真逆のシンプルな合鍵だった

三年で返されたマスターキーは私に渡った

鍵を渡されるとか・・・
実は理事長が選ぶ影の図書委員みたいなものなのかな


「色んな意味で先輩ですね」


ハッチは此処に来てなにかの写真集ばかり見ていたのだろうか
一番似合わない図書委員の称号にフフと笑いが出た


そんな私の思いを裏切るように
ハッチは口元を手で隠してしまった

口元は隠れているけれど深い緑色の瞳はゆらゆらと揺れているし僅かに見える耳は真っ赤
どこか苦しそうにも見える表情に戸惑う


「・・・?」


どうしたのだろう?
首を傾げてみたけれど自分の発した言葉なんて単なる先輩呼びなだけで
なんなら“色んな意味で”なんて少々ディスった


だから、もしかして怒らせてしまったのだろうか


食い入るように見つめる私の目を手で覆ったハッチは小さく唸ったあと


「・・・反則」


よく分からない言葉とともに
せっかく離れた距離を詰めた


「・・・っ」


またもハッチの腕の中に逆戻りした私も
動悸は強いけれど、全然嫌じゃない


なんとも軽い自分に自分が一番驚いている


「やっぱ俺、おかしいわ」


「・・・はぁ」いや、私も


「丈夫が取り柄だったのに
狭心症かもしれねぇ」


「キョウシンショウ?」


「動悸が半端ねぇ」


「・・・」それ、私もだ


「女なんて面倒臭せぇだけだと思ってきたのに
花恋に触れたくて仕方ねぇ」


「・・・っ」


女→面倒臭い
私→平気


抱きしめる→頭を撫でる→動悸が打つ


もしかして愛玩動物の認識か
それとも捕食の対象か



導きだした答えに
あれほど騒がしかった胸が重くなった


「なぁ」


急に声色を変えて甘い声で呼ぶとか

心臓に悪い


「花恋」


「はい」


「また会えるか?」


「・・・たぶん?」


「クッ、ほんと面白いヤツ」


「ん?」面白い要素って・・・
首を傾げたくなったところで微かに振動が伝わってきた


「タイムオーバー、またな」


「はい」


隙間なく抱きしめていた癖に
一瞬で纏う空気を変えたハッチは
ヒラリと身体を翻して私のブランケットを肩にかけたまま帰ってしまった