ハッチの武家屋敷は東白学園のある東の街と北の街の境界線近くにある。らしい


「近いうちに説明してやるつもりだが
木村組が統べる街は北
その一番東寄りに本家が建っているんだ」


「是非地図も一緒に」


「クッ、そうだな」


お喋りしているうちに
三十分ほどで武家屋敷に到着した


「花恋」


「ん?」


「約束だ、此処からは
分からないことは全て俺が教える
勝手に解釈して暴走するなよ」


「ゔぅ・・・分かった」


「また抱っこで行くか?」


「えっと、痛いところが多いから
お断り、です」


「ほら」


道標のように差し出された手を掴む
身体に気配りながら支えてくれるハッチは王子様みたい


「ん?」


「なんか、イケメンに慣れていないから緊張する」


「なんだそれ」


呆れた顔だってカッコいいのだから罪深い


前回と違って誰も居ないことに驚いていると


「花恋が緊張するから
とりあえずの人払いな」


ハッチのお陰らしい


「ありがとう」


「ただ、玄関は抑えようがなかった」


「・・・え」


ガラっと開いた引き戸の中は
仁義なき面々が勢揃いしていた


「「お帰りなさい」」
「「「おかえり」」」
「疲れたでしょ、早く入って」


「ただい、ま?」


合っているのか悩みながらハッチを見上げると「合ってる」と頭を撫でられた


「花恋ちゃんのスリッパね」


可愛い花柄のスリッパを出してくれたのはハッチのお母さん


「ありがとうございます」


「いいえ〜」


近くで見れば、ハッチの顔はご両親のいいとこ取りだと分かる


それにしても三人も子供がいるように見えないお母さんは
いつもお父さんの腕の中にいて仲が良い


「昼飯まで部屋にいるから」


ハッチのひと声にブーイングを貰うも
その強引さには誰も逆らえないようで

囲まれた割にはすんなりハッチの部屋に向かった


「あの」


「ん?」


「もしかして、だけど
ハッチと一緒の部屋じゃないよね?」


「逆に別の部屋とか怖いわ」


いやいやいやいや


「それは、困る」


「俺も」


「あのね、ハッチと付き合ったばかりで
私は怪我人でしょう?」


「何かあった時に直ぐに対処できるだろ」


「そうだよね・・・じゃなくてっ」


「逆に、花恋は俺と離れて平気なのかよ」


「・・・それは」
なんて痛いところを突いてくるのだろう


「そもそも俺のマンションに戻るはずだったのに
親父が煩せぇから渋々こっちにしたんだ
俺は一ミリだって花恋と離れたくねぇが
花恋は違うのか?」


「・・・狡い、その言い方」


「狡くて結構。やっと気持ちを伝え合ったのに離れるとか
ホテルかどっかで監禁するか」


鋭い視線を見るだけで、本気が伝わるから白旗をあげるのは私


「分かりました」


「分かればよろしい」


「お布団は・・・」


「一緒に寝る」


「モォォォォ」


言い出したら聞かないハッチを説き伏せるとか無理だ


「分かればよろしい」


ドヤ顔ムカつく