午後の面会時間は小百合さんから始まり、向日葵さんとお兄さんの仲良し兄妹に理事長と白井先生へと続く


そして


「よぉ」


必ず夕食の時間に現れるハッチは
豪華なお重箱を持参していて
ソファセットに並んで食べるようになった


それに


「今日も美味そうだ」


何故か院長まで奥さんとやってきて
なんとも賑やかな時間になる


「じじぃは遠慮しろよ」


「やだね、木村のは美味いからな」


「チッ」


「ほんと美味しいわ」


「ほら、花恋も食え、橘の病院食なんか不味いだろ
それ残して良いからこっちを食え」


いつも私のトレーを取り上げて
お重箱の中を取り分けるハッチは


もしかして私を太らせて食べるつもりじゃ


「ないからな」


読んだよね、今、頭の中読んだよね


「俺は人外でもなけりゃ、武家屋敷の若様でもねぇからな」


妄想する私に釘を刺しているはずなのに


「「ブッ」」


吹き出したのは院長夫婦


「分かったか?」


二人を無視するハッチに圧をかけられて

甘い卵焼きを咀嚼している私は
コクコクと頷くだけだった


・・・あ、これ、食べたことある


懐かしい感じがしてハッチを見上げる


「ん?どうした?」


「卵焼き、食べたことある気がします」


「あぁ、うちで食べたことある」


「そうなんですね」


朧げながら思い出すのはハッチの匂いとお重箱の料理を食べた時


それも“気がする”程度の曖昧なものだから
嗅覚と味覚頼りの自分に情けなくなる


「良い傾向じゃねぇ?」


「一生思い出せないかもしれないのに
進歩したじゃねぇか」


そんな私に気付いてくれるハッチも院長も笑っているから

日々感じている焦りが薄れていく


時間をかけて完食したあとは何故か並んで歯磨きもして


消灯時間に鳴るメロディを聞くまで
私はベッドの上、ハッチは椅子をベッドの脇に置いてお喋りをする


「退院、明後日だな」


「はい」


金曜日に退院と思っていたけれど
橘院長に土曜日と伝えられた


「左手使えねぇから、家事も風呂も通院も不便だろ
俺が面倒みるって橘には伝えたからな」


「・・・え」


実は同じことを理事長にも向日葵さんにも言われている


確かに寮に戻れば洗濯と掃除は自分でする
ギプスの腕もナイロンを被してお風呂にも入れるし、今の時季はシャワーだけでも良い


だから・・・


「気持ちは有り難く受け取ります」


「なんでだよ」


「だって、過保護過ぎますよ?」


「当たり前だろうが、俺の所為で花恋が怪我をしたんだぞ?」


そう言われてしまえば答えに困る


「世話になっとけ」


「「っ!」」


急にスライドドアが開いたと思ったら
橘院長が入ってきた


「理事長とも話したが、今の状況は不便だから
せめて腕のギプスが取れるまで
木村の家に世話になるといい」


「ほら、理事長も院長もこう言ってる」


二人に詰め寄られて


「では、よろしくお願いします」


頭を下げた