「おいっ」


声をかけられて意識が戻る


いけないいけない自分の世界に入り込んでいた


「・・・なんですか?」


「いや」


「フフ、変なの」


あ、笑うとまだ痛い


「・・・っ、痛むのか」


「そりゃあ、ミイラなもので」


「ブッ、可哀想だな」


「絶対可哀想だと思ってないですよね」


「んな訳ねーだろ」


なんだろう、やっぱり知り合いかな
この人とのやり取りは懐かしい気がする


でも・・・それと同時に胸も苦しい


それが何か分からないうちは
踏み込んではいけないと思った


「忘れてんなら、また始めればいいか」


「えっと」


忘れてしまったのに気分を害してないのだろうか

前向きなイケメンさんに少し気分が楽になる


「初めまして」


サッと手を出してきたイケメンさんは


「ハッチです」


破壊力抜群の笑顔を見せた


「青山、花恋です」


「知ってる」


「・・・ですよね」


知らないと思っているのは私だけだ


「で、ハッチさんとはどこで」


「ハッチだ“さん”をつけるな」


「でも」


「花恋が決めた呼び名だからな」


「・・・私?」


「あぁ」


何を言われようとも掠りもしない頭の中

なんだか申し訳ない気分になった


「図書館で会ってた」


「東白学園の図書館ですか?」


「あぁ」


益々分からない


「中央図書館にも一緒に行ったぞ?」


「・・・」


「一緒に飯も食った」


「・・・ごめん、なさい」


何も思い出せない


「いいんだ、責めてるんじゃない」


「でも」


「お前が俺を忘れても
俺が全部覚えてるから。それでいい」


今にも泣きそうなハッチの表情を見ているだけで


ギュッと苦しい胸が涙を連れてきた


「泣くな」


「・・・っ」


「俺が覚えてるって言ったろ?」


「でも・・・」


「花恋が何度忘れても
俺が全部覚えてるから問題ない」


「ハッチが忘れたら?」


「そん時は、また
初めましてで良いだろ」


「・・・はい」


「花恋」


「・・・?」


「スマホ持ってんのか?」


ハッチの目線はテーブルに置いた淡い紫色のスマホ


「あ、これですか?最近持つようになったんです」


「俺とも交換しろ」


「口が悪いですね」


「クッ」


「えっと、どうするんだったかな」


ロックを解除して、しばし悩む


「俺がやる」


「じゃあお願いします」


ハッチの長い指が画面を滑って
瞬く間に携帯番号とメッセージアプリにハッチの名前が追加された


「木村、永飛さん」


「ん?なんか思い出せたか?」


「いいえ、でも・・・
エイトが八になってハッチなんですね」


「記憶が無くても答えは同じなんだな」


「・・・なにか思い出せるといいな」


「そん時は、痛いことも思い出すと思うがな」


「・・・そう、ですね」


消えた記憶の中にハッチと怪我
その二つが繋がるとは到底思えなかった