ボソボソと話し声が聞こえる


その声がリアルに耳に届いたところで意識が浮上した


「あ、あ、あなたっ花恋ちゃんが目を覚ましたわっ」


ゆっくりと焦点が合った瞳が捉えたのは焦った顔の小百合さん


「ナースコール、あっ、あった。」


更に焦っている理事長と


「花恋ちゃん。良かった」


泣き出しそうな顔をした白井先生だった


「あの」


「大丈夫、直ぐ先生が来てくださるわ」


ナースコールに先生、視界に入る白い壁に点滴バッグ

どうやら病院のベッドに寝かされているらしい


「私、どうかしましたか?」


寝かされている状況が読めなくて身体を起こそうとした


「痛っ」


「だめよっ、花恋ちゃん
左腕の骨折と全身打撲なんだからね」


「・・・え、骨折と打撲?」


どうして自分がそうなったのか
思い出そうとするのに頭が重くなるだけ


「花恋、ちゃん?」


「小百合さん。私、いつ怪我を?」


身体は現実を伝えているのに
頭の中は霧がかかったみたいに真っ白で不安な気持ちが声を震わせた


「え・・・、あなた」


「浩一、早く先生を呼んで来てくれ」


「あぁ。すぐに」


私の右手を握って「大丈夫」と繰り返す小百合さんと
その小百合さんの肩を抱く理事長


バタバタと足音が近付いてドアが開いた音が聞こえたと同時に


「目が覚めたか」


やけに落ち着いた声とともに白衣を着た医師が現れた


「名前は?」


「青山花恋です」


「誕生日は分かるか?」


「━━年三月三日生まれの十七才です」


取り留めもないような質問に答えていく


「で?此処に運ばれた原因だけが思い出せねぇのか」


「えっと」


どうやらそうみたい


「花恋ちゃんね駅ナカビルの階段から落ちたみたいなの」


駅ナカビルの・・・
「・・・階段、落ちた」


思い出そうとしてみても、やっぱり
真っ白な頭の中には何も浮かんでこなかった


「頭も打ってるからな、頭部外傷による健忘と・・・詳しくは少し動けるようになってからな
記憶は、そのうちに思い出すかもしれねぇし
一生思い出せねぇかもしれない
今は忘れたことを考えるより、怪我を治すことに専念しろ」


「・・・はい」


「しばらく入院だから、困ったことがあればいつでも呼んでくれ」


「ありがとうございます」


顎ヒゲがちょいワル風の医師はこの病院の院長らしい


「花恋ちゃん、少しベッドを起こしてみる?」


「はい」


怪我をして救急搬送されたけれど
ポシェットの中に身分証が入っていなくて携帯電話の情報から理事長に連絡が入ったらしい


慌てて駆けつけた三人は目を覚さない私の側で待っていてくれたそうだ