ハッチに会わなくなって三週間が経った


会わなければ直ぐに忘れると思っていたのに
現実は思っていたより苦しくて、膨らむ想いと葛藤する毎日


想い人がいるハッチにとっては迷惑なことなのに・・・



そんな私に、罰が下った




ショッピングモールへ向かうため、中央駅裏ロータリーでバスを降り
駅ナカビルへ入る階段を上がりきったところで正面に女性が立ち塞がった


「ねぇ」


「・・・?」


「ちょっといい?」


チョココロネみたいに巻かれた髪を指に絡めて
少し高いところから私を見下ろすその顔に見覚えはない

長い睫毛が上下する瞳はこちらを睨んでいて


思い浮かべる僅かな知り合いの中に
当てはまる人がいないことから


「・・・私で合ってますか?」


恐る恐る出した声は震えていた


「そう、貴方で合ってるわ」


ネイルの施された綺麗な手が口元を覆う
フフと笑っているのに伝わってくるのは静かな威圧感

その張り詰めた空気に動けなくなった


そんな私の全身を舐めるように見た女性は


「永飛を返してくれない?」


ハッチの名前を出した


「・・・」もしかして


あの日肩を抱いていた
ハッチの大切な人かもしれない


そう判断した私ができることは

僅かな誤解も許されないという自分への戒めだった


「あの、ハ。木村さんとは何でもありません。これは断言できます」


「図書館に行って、ケーキも買ったのに?」


「・・・っ」


突きつけられた事実にたじろいでしまう

それを見逃さなかった女性は


「不愉快」


乱暴に言葉をぶつけてハァとため息を吐き出した




次の瞬間




バチーン


右の頬に痛みが走った


その衝撃に身体がバランスを崩し傾くと同時に、肩に強い強い力が加わった





「キャァァァ」



体勢を直そうと頭が働く前に身体は階段に打ちつけられていた


「人が落ちたぞっ」
「君、大丈夫かっ」
「救急車っ」


遠ざかる喧騒と


激しい身体の痛み


薄れゆく意識の中に


ハッチの大切な人の微笑みが残った