━━━翌日の放課後


理事長室を訪れた私に渡されたのは、本当に貸し出し用かと疑うような最新のスマホだった


「理事長、コレ新品に見えます」


「実は貸し出し用のバッテリーが寿命で
交換よりも新しい方がお得だったんですよ」


それが本当かどうかまで調べる術もない私は


「ありがとうございます」


お礼を言うしかなかった


基本の使い方を教えてくれるのは理事長の息子さんでSクラスの現国担当、白井先生

三人で紅茶を飲んでいる間に充電も完了していた


そこから一時間余り
必要なアプリをダウンロードして
ネット検索や注意点からメール送信、迷惑メールの対処法
メッセージのやり取りから写真の撮り方、加工に至るまで駆け足で詰め込まれた


「使えそう?」


「習うより慣れる予定です」


「ハハ、前向き」


理事長と白井先生は雰囲気がソックリ
物腰の柔らかさや癒し系の笑顔はSクラスでも大人気だった


「Sクラスじゃなくなったけど
何かあれば職員室へ相談に来てくださいね」


「はい。ありがとうございます」


「スマホに困ったらメッセージ送ってください
青山さんよりは長く使っていますから答えられることも多いと思います」


「ありがとうございます。心強いです」


「私でも教えられますよ?」


割り込んできた理事長は「同じ機種だから」と笑った


「こんなに良くして頂くとバチが当たりませんかね」


肩をすくめて笑って見せれば


「本来なら三年間貸し出しする予定のところ
一年も使わないんだから、もっとわがままを言ってもバチは当たりませんよ」


理事長は卒業までの十ヶ月余りを擦り切れるほど使ってと笑った

恩に報いるために私ができることは
少しでも良い就職先を決めて学園の実績を上げることしかない


メッセージアプリの最初の友達は理事長親子というレアキャラ


目の前に居ながらメッセージを送り合いスタンプを押すという面白い練習も沢山した


最後はまた夕食時間ギリギリになり
白井先生に寮まで送って頂いた




「ありがとうございました」


「いいえ、僕も楽しかったです
ささ、先に中に入ってくださいね」


先生に促されるまま寮の中に入った私は


離れたところから見ていたハッチに気づいていなかった