「遅せぇ」


「これでも急いできたんですっ」


ハッチと出会ってからの週末は
いつも一人だった図書館に二人で並んで座るようになった


というか・・・ハッチは必ず先に来ていて
さっきみたいに“遅い”と文句を言う


週末は洗濯と普段できない細かい掃除をするから
どうしても九時より早く来ることはできない

それを“遅い”と一喝するくらいだから
ハッチは余程早く来ているのだろう


「そんなに鯨が好きなんですか?」


「あぁ」


「へぇ」


「聞いた割に反応が薄いな」


「違いますよ?この“へぇ”には
毎回私に文句を言うくらい早く来る原因に鯨がなっているという確認も含まれているんです」


「・・・なんだ、それ
口に出して言えよ、全然分かんねぇ」


今日も今日とてケラケラ笑うハッチは


「んで?」


「はい?」


「花恋は何を読んでんだよ」


「あ〜、私は続きを読んでます」


「また人外かよ」


「読んでみますか?案外ハマるかもしれませんよ?」


「ハマるわけねぇだろーが」


そこは女子と違って靡かないらしい


「ほらこれ、可愛いぞ」


パラパラと捲って探した頁には鯨ではなく
イルカと女の子がオデコを合わせて笑っているように見えた


「ほんとですね、可愛い」


「だろ」


「こういうのもあるんですね」


「たまには興味のない棚も探検してみろよ
新しい発見があるかもしれないだろ」


「じゃ、これ読んだら探検してみますね」


「んだよ、結局は人外かよ」


「だって・・・好きだから」


「・・・っ、お前」


「・・・?」


急に目を見開いたハッチは口元を手で覆うと気まずそうに視線を外した


・・・ん?


勧めてもらった探検を後回しにしたから気分を悪くしたのだろうか?

その表情を読み取ろうと僅かに近づけば


「ちょ、お前、近いわ」


驚いたように慌てて背中を反らせた反動で口元を覆っていた手が外れた


「・・・え」


今度は私が驚く番

だって

露わになったハッチの顔は頬以外も真っ赤で、更には耳だって真っ赤なのだ

もしかして・・・「熱?」


見る限りは元気そうだけど
本当は調子が悪い、とか?


心配になった私は立ち上がってハッチの頬を両手で挟むとオデコをくっつけた