初日はあっという間に終了

迎えが来るまでお喋りに付き合ってという郡さんに頷いて


簡単な自己紹介から始めることにした



「向日葵って呼んで」


「向日葵さん。では私も花恋でお願いします」


どこか重い空気を纏う向日葵さんはモデルさんではないらしい


「ふふっ、なんなのそれ」


そしてよく笑うことが分かった

モデルさんではないけれど
美人過ぎて周りを惹きつけている


「注目されるのは兄と彼氏の所為だから気にしないの」


それを一蹴する強者でもある


「それにしても初めて会ったはずなのに、ずっと前から知ってる気がするの
それが誰だかは分からないんだけどね」


「他人の空似か
どこにでも居そうな顔、とか」


「フフ、花恋は可愛いわよ
綿飴みたいね」


「・・・え」難解


向日葵さんは破壊力抜群の笑顔で何度も私の頭を撫でる


『ふわふわ』『触り心地良い』
『食べちゃいたい』


最後のは聞き捨てならないけれど
どうやら緩い癖のある私の髪のことだと思う


そして・・・


「・・・はぁ?」


夢中になっていたお喋りが突然止まった


「・・・っ」怖っ


美人って半開きにした口も綺麗。なんて思いながら、次の言葉を待つ私の肩を両手で掴んだ向日葵さんは


「此処から出たことないの?」


「ええ、そうですよ」


信じられないと呟いた


だって聳え立つ高い塀に囲まれた
セキュリティ抜群の敷地内に建つ寮だし

なんなら食住が満たされているから
衣類なんてこれまでのもので充分

更にはおやつタイムさえ、間宮さん手作りのお菓子が出てくるんだから

わざわざ外に出かける必要性を感じない


「希少生物ね」


「・・・えと、私ですか?」


「花恋以外に会ったことないわよ」


「褒められてます、かね?」


「ふふ。もちろん」


絶対違うけど見下されている感じもないから良い意味に取ることにしよう


そんな私に真っ直ぐ視線を向けた向日葵さんは僅かに頬を強張らせた


「私ね。身内以外に友達いないの」


「・・・っ!」嘘だ

あれ?身内って友達じゃないよね?
言葉の意味を測りかねているうちに


「仲良くしてくれる?」


向日葵さんはその綺麗な瞳を揺らした


悩む理由なんてない


「もちろんですっ」


「じゃあ明日からもよろしくね」


そう言って差し出された向日葵さんの右手が綺麗過ぎて


「こちらこそよろしくお願いします」


慌ててブレザーで手を拭いて応える


そんな私に


「花恋はそのまま。変わらずにいてね」


「・・・?はい」


向日葵さんは難解な言葉を残して
「迎えが来たから」と立ち上がり
ひらひらと手を振りながら教室を出て行った