「花恋お帰り」


「ただいま」


生徒用の玄関から出るとすぐハッチの腕の中に収まった


「じゃあ花恋ちゃん、また明日ね〜」


「ありがとう来飛君、また明日」


声をかけてくれた来飛君にどうにか返事はしたけれど、ハッチの腕からは抜け出せそうもなくて顔を見てのお礼は諦めた


黒いスポーツカーに乗り込んで、お喋りしているうちに到着したのは見覚えのある地下駐車場だった


「ん?」


「今日から此処な」


もしかして来飛君の言ってた監禁?


頭を過ったそれに気を取られているうちに


「ほら掴まれ」


エレベーターに乗っていた




見晴らしの良い高層階
リビングルームの大きな窓から見える空は夏特有の大きな雲が見える


あのメモには何が書かれていたのだろう

あの後ろ姿は、確か・・・山越さんだった

これまで一度も話したこともないのに、いきなり過ぎて益々謎


「花恋」


向日葵さんが帰った後、私が一人になるタイミングを見計らっていたとすれば。良くないことにしか思えない


「花恋」


とすると・・・ハッチや来飛君と居ること?


「花恋」


「・・・っ!ビックリ、した」


空を眺めていた目の前にハッチが割り込んできた


「ちなみに名前呼んだの三回目な」


「え、気付かなかった。ごめんね」


「どうした?」


目線を合わせるように屈んだハッチは、頭の上に手を置くと顔を覗き込んできた


「・・・えっと」


「ん?」


「来飛君が来るのを待っていたら、クラスの女の子が小さく折り畳んだメモを投げてきて」


「あー、あれか」


「持ってる?」


「あぁ、一応な」


「見せて欲しい」


「見せない」


「・・・え」


まさか拒絶されるなんて思わなくてハッチを見つめる

私の視線から逃れるように目を逸らしたハッチは
「ジッと見るとか反則だろ」


フッと頬を緩めて笑うから、私にもそれが移った


それでも。知りたい欲求は消えそうもなくて、念を込めるように視線で縫い留める


瞬きだけを繰り返しているうちに、ハッチは「モォォ」なんて口を尖らせると、サッと身を翻した


姿を追いかけて振り返ると、ハッチはギシと音を立ててソファに座った

もう自分が頑固なことは認めるから、隠し事なんてやめてほしい


そんな気持ちを込めて「ハッチ」と呼ぶ


「・・・ハァ」


前髪をクシャと掴んだハッチは「来いよ」と脚の間をトントンと叩いた


・・・え


いつもなら隣に来いと示す手が今日に限ってハードルを上げている


「此処じゃねぇと見せねぇ」なんて迷うことすら許さないハッチに抗議するより先に身体は動いていた



「遅せぇ」



ハッチを背もたれにして抱きしめられただけで、熱でも出たみたいに熱くなる身体は自由を失った


お腹でクロスされた腕

右の頸にかかる息

そのどれもが甘い痺れを運んできてギュッと目を閉じた