一週間かけて行われる期末試験はSクラスとは別物だった


出席番号順に並ばなくて良いことから始まって
問題自体が三年間の復習みたいなもの
それも記述無しのマークシート解答だからか
開始して十分もすれば生徒達は机に突っ伏して寝てしまった


頭を傾げているうちに二限だけの初日が終わった


「花恋、来飛が来るまでは座って待ってるのよ」


「分かりました。向日葵さん。また明日」


「うん。また明日ね」


今日は彼氏さんが迎えに来てくれるとかで、向日葵さんは来飛君が来ていないことを最後まで心配していた


過保護過ぎる向日葵さんに手を振った後は
来飛君が来るまで残っているからと声を掛けてくれたNight所属の男子生徒に頭を下げて鞄の中から本を取り出した


【冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした】


買ったまま机の奥に封印していた小説を昨日ハッチと寮まで取りに行った


『新作か?』


『ううん。中央図書館で読んだ本』


『何度も読みたい名作か』


『挿絵がね』


『ん?』


『ハッチにそっくりだったの』


『・・・っ、んだよ』


真っ赤になった顔のハッチはレアだった


その挿絵を見たくて片手でペラペラと頁を捲る


とその時


机の横を通ったクラスの女子の手から小さな紙が投げられた


「・・・」なに


咄嗟に顔を上げた時には既に教室の後ろの扉から出るところだった

机の上に転がった紙は小さく畳まれていて


小説を閉じて指先で摘むと単なる紙のようで警戒心が薄れる


右手だけで何とか開くと、付箋紙ほどの小さなメモに隙間なく書かれた小さな文字が見えた


向きを直して読もうとした瞬間


「何、コレ」


メモが手から抜き取られた


「・・・っ」


それを手にして鋭く目を細めているのは来飛君

近づいた気配もなかったことに驚いているうちに


「オイッ」


来飛君は威嚇するような低い声で吠えた


「「「っ!」」」


反応したのは残ってくれていたNightの面々


「チッ」


それよりも


「来飛君」


気になるのはメモの内容


「ん?」


吠えた人物とは思えない柔らかな雰囲気に戻った来飛君へ手を伸ばした


「それ、何て書いてある?」


「んー、これ?って渡す訳ないじゃん」


「・・・んと」


「花恋ちゃん。油断しちゃダメだよ」


頭をポンポンと撫でた来飛君はククと笑って


「残念だけど。花恋ちゃん監禁されちゃうかも」


口調と裏腹に怖いことを言う


「益々気になる」


「とりあえず帰ろっか。見せてくれるかどうかは兄貴が決めるからね」


「ほら」と手を出した来飛君に掴まって立ち上がると


「もう到着してる」


見た目怪我人の私を気遣いながら教室から連れ出した


少し焦っているような来飛君より、さっきのメモのことが気になっていた私は


下駄箱で待っていたハッチと来飛君のやり取りに気付かなかった