「自分で開けてみる?」


特別教室の並ぶその中で、唯一廊下側の窓すらない教室の前で立ち止まった来飛君は


スライドドアの前で繋いでいた手を離した


確か私の指紋も登録済みと聞いているから、それを試すということなのだろう
来飛君に頷いて見せるとレバーを握った


ただそれだけでガチャと重い開錠の音が聞こえた


よく分からないけれど向日葵さんのお兄さんを思い出してみても到底理解できない絡繰りに頭がクラクラする

どこかぼんやりした私に
「サァどうぞ」と声がかかり


お礼を言って重い扉の中へ入った


来飛君が壁のスイッチを操作すると照明が一斉に点く

それによって目に飛び込んできたのは、理事長室のようなソファセットがテーブルを囲んだ広いスペース

壁際には橘病院のような冷蔵庫やウォーターサーバーが置かれ、更にはミニキッチンや、無人だったのに程よく効いた空調

パーティションの向こう側にベッドが見えたことで、漸く“保健室”としての機能が見えた


「こっちへどうぞ」


促されるままソファに腰掛けると来飛君は冷蔵庫からお茶を出してくれた


「ありがとう」


「いいえ」


向かい側に腰を下ろした来飛君は「ちょっとごめんね」とスマホを操作し始めた

僅かな変化も見逃したくなくて
眉根を寄せた来飛君から目が離せない


やがてスマホをテーブルに置いて顔を上げた来飛君は


「兄貴の許可も得たから話すね」と真っ直ぐ私を見た


「お願いします」


「木村が三ノ組ってのは聞いてるよね?」


「盾の三ノ組」


「うんうん。勉強できてるね
白夜会に何かあれば盾となるうちが出張る
イコール、うちは白夜の中で精鋭」


「えり抜きだと言うこと?」


「うん。その三ノ組筆頭、木村の若頭の唯一に手を出したのが花恋ちゃんを突き落とした女だった」


「・・・」難しい


「手の内にある人物に手を出されたということは、精鋭であるべき三ノ組に隙があると見られた
それは、そのまま白夜会の脆弱を意味するんだ」


「・・・私の所為、だね」


「ううん。違うよ花恋ちゃん
厳密に言えば、花恋ちゃんはまだ兄貴の彼女ではなかった
親父も兄貴から要請がないうちは動けなかったんだ
だから俺が単独でNightをつけた」


「知らない内に守られていた」


「だね。人集りで遠巻きに護衛するNightも苦戦していた中
あのタイミングで来るとは予測できなかった」


「タイミング?」


「女って大体対象が一人になった隙を狙うんだ。そういう場面を見られたくないのか逃げ道のためか、隠れてコソコソする」


「正々堂々と攻めてはこないということ?」


「あぁ。油断したのはNightだけど
兄貴が関わっている以上。三ノ組の隙として情報が広がった」


「・・・」


「機械じゃないから少なからず隙はあるだろ?
最終的にその隙をどう埋めるかが三ノ組に課せられた始末なんだ」


「・・・始末?」


「花恋ちゃんを叩いて階段から突き落とした女の始末ね」


・・・もしかして


仁義なき戦争を思い出すだけで“始末”と聞いて思い浮かぶのは一つしかなかった