「例えば、今のタイミングでどちらかの机にらくがきすることとか、できるよね」


小声で詩子がささやく。
私は誰にも気が付かれないように小さく頷いた。

でも、どっちに?
考えている時間なんてない。

ふたりはいつ教室へ戻ってくるかわからないのだから。
考える前に私は黒いマジックを持って立ち上がっていた。

自分が今いる場所からち会のは玲香の机の方だ。
すぐに玲香の机に近づいて身をかがめる。

詩子が近づいてきて、私のすぐそばにたち手元を隠してくれた。


《男好き。ヤリマン》


時間のない中で書くのはこれが精一杯だった。
雑な走り書きを終えて私と詩子はすぐに自分たちの席へ戻った。

その直後に玲香が教室へ戻ってきて、ドキリとする。
本当にギリギリだったみたいで、今更ながら汗が吹き出してきた。

怪しまれないように鏡を取り出して前髪を直すふりをしながら、鏡に玲香の姿を写す。
友人らの楽しげに会話していた玲香は自分の机にされているラクガキに気がついて顔色を変えた。