「無理だよ。わたしのことはあなたには関係ないでしょ」


「お前を放っておけない」


「意味わかんない。わたしは一人で大丈夫だから心配しないで」



立ち上がって、帰ろうとドアノブに手をかけた瞬間、グイッと腕を引かれ、そのままくるりと回転させられてドンっとドアに背中が押し付けられた。

目の前には子犬のように悲しそうに形のいい眉を下げた顔をした彼がドアに手をついて立っていた。

えっと……これはいわゆる壁ドンってやつ?


なんでこんなことになってるの。



「また、迎えに行ってもいいか?」



弱々しく静かな声で紡がれた言葉。


さっきまであんなに強気だったのにその勢いはどこに行ったのか。


これは策略か何か?

ギャップで落とそうとされている?


頭の中でそんなことを考えるけど、きっとどれも正解じゃない。

たぶん、彼は本心で言っていて本心でこんなにもわたしを引き留めている。


なんでかは知らないけど。


きゅるん、とした瞳で見つめられて押しのけられる程、わたしは冷たい人間ではなかったようで、どうしてだか、勝手にわたしの首はこくり、と頷いてしまった。


頷いたわたしを見て、パアッと花が咲いたように笑った彼の笑顔はまるでお日様のようで暗闇でしか生きていないわたしにはあまりにも眩しいものだった。