「特別なんかじゃないよ。わたしとあなたはまだ他人だし」 名前を知っている時点で他人ではないけど、名前を知っているだけのこと。 「キスもしたのに?」 ずいっと顔をわたしの耳元まで寄せて、低い声で囁き、身体が甘く痺れる。 「っ、」 あの夜の甘い口付けが脳裏をよぎる。 かあっと赤く熱を持ち始めた耳と頬を隠すようにわたしは反対方向へ体を向けた。 「あの日はどうかしてたの!」 そう、あの日のわたしはどうかしていた。 この人と一緒にいたいと無意識にねだってしまったから。