「そんなことねえよ。お前に俺の事知ってほしいって言ったのは俺だし。そうだ、そういえばコレ返すの忘れてた」
そう言いながらわたしの前に出されたのは茶色い封筒だった。
「なにこれ……?」
「あの日、連れて帰ったのは俺の意志だからこれは受け取らない」
強引に押し付けられて、恐る恐る封筒の中身を見ると、そこにはあの日わたしが置いていった額と同じ、万札が一枚入っていた。
「でも……」
「じゃあ、その代わり連絡先教えて」
「え?」
「自分で稼いだ大事なお金だろ?そんなの受取れないし、俺だってたまにバイトとかしてるし親父が残したもんとかがあるからお前に金の心配されるほどじゃねえよ。てことでスマホ貸して」
はい、と手を差し出される。
そういう意味で渡したお金じゃなかったんだけどと思いながらスマホを渡そうとポケットに手を突っ込んだけど、そこでわたしは動きを止めた。
ここでわたしがスマホを渡してしまったら、きっと連絡先を交換することになる。
そうしたらわたしと柊磨に関わりができてしまう。
赤の他人のままではいられない。
そうなったらわたしはもう一人には戻れない気がするんだ。
脳内で危険信号が光るとと共に、関わってはいけない、また嘘をつけ、と頑丈に作られた部屋の中に閉じ込めた心がいう。



