この前もゼロセンチの距離で体温を感じていたのに場所が変わるだけでこんなにもドキドキしてしまうなんて。
甘く高鳴る鼓動をどうにかしたくてもこの距離だとどうにもならない。
「こ、これは……」
さすがにダメでしょ、と言ったのにその瞬間ブロロロロロッとエンジン音がしてわたしの声はいとも簡単にかき消された。
「絶対、離すなよ」
エンジン音に負けないように少し大きめの声でそれだけ言うと、ガタン、と音がしてわたしたちを乗せたバイクがゆっくりと走り出した。
初めて乗ったバイクは思っていたよりもスピードが速くて、わたしの偽物の長い髪が風に靡く。
温かい体温が何故かたまらなく愛おしくなり、抱きしめていた力をぎゅっと少し強め、自分の頬を彼の大きく逞しい背中に寄せてそっと目を閉じる。
鼻を掠める柔軟剤の匂いが心地よい。
出会ったばかりなのに、なんでこんなに安心するんだろう。
こんなのダメなのに。
絆されちゃいけない。
わたしは一人で生きて行かなきゃいけない。
誰かを求めても、誰かを欲しいと思ってもわたしにそんな権利は存在しないから諦めた。
これ以上、この人といたらわたしは彼が欲しくなってしまう、と本能が告げる。
でも……今日だけ。これで最後にするから。
どうか許して。



