「あと一年で成人ですから」
「急に大人になろうなんてしなくていいんだよ」
そう言ってわたしの方へ手を伸ばそうとしてきたけど、その手の薬指に恨めしいほど銀色に光るものが視界に入り、反射的に体がその手から離れた。
「結婚したんだからむやみに触ったら奥さんに怒られますよ」
そう、彼は既婚者になったのだ。
わたしと出会ってから1年後に。
彼には家族がいる。
わたしではない誰かと。
「彼女は珠莉ちゃんたちだったら気にしないよ」
なんだそれは、と首を傾げたくなる。
最初から眼中にないのはわかっていたけど、ぎゅうと胸が締め付けられて痛い。
こうなることがわかっていたから会いたくなかったんだ。
わたしが世の中の残酷さを思い知ったあの日からずっとこうして接触するのを避けてきた。
バイトを入れたり、彼が必ずいる金曜日は合コンに行って帰りを遅くしたり。
頑張って会わないようにしていたのに、会えばこれだ。
ならば、自分から突き放せばいいんだ。
「わたしが気にするからダメです」
「どうして?」
「わたし、彼氏できたんで」
にっこりと笑えていたあの頃を思い出してできるだけ楽しそうで幸せそうに見える笑顔を貼り付けて言った。



