すると、そこにはわたしが予想していた男性がこちらに手を振っていた。
前に見たときよりも少し伸びた黒い髪の毛。
黒縁のメガネは彼のトレードマークと言ってもいい。
爽やかという言葉がピッタリ当てはまるような人。
「寺嶋さん、お久しぶりです」
わたしが椅子から立ち上がり、にこりと余所行きの笑顔を貼り付けてみせると彼は一瞬驚いたような表情を浮かべてこちらへ小走りで向かってきた。
「寺嶋さん、なんてよそよそしいじゃん。前みたいに誠くんって呼んでよ」
呼べるわけがない。
あれはあなたに恋をしていたわたしだったから呼べただけ。
何も知らなかったあの時のわたしだったから。



