そう思っていたのに、
「……知らないなら知っていけばいいだけだろ」
今までずっと黙っていた彼がゆっくりと口を開き、強い意志を持った深い赤が真っ直ぐにわたしを見つめる。
そして、大きくて温かい手がわたしの頬に触れる。
「親を知らないからなんだ。家族を知らないからなんだ。そんなこと、大した問題じゃない。お前が幸せになる権利を放棄してることの方が問題だ」
悲しそうに、寂しそうに顔を歪ませ、わたしの悲しみや苦しみを必死で理解しようとし、暗い闇を歩くわたしを必死に光のある方へ呼び戻そうとしてくれている言葉に余計に涙が溢れ出てきて、頬を伝い、地面に丸く黒いシミをつける。
なんでそこまでわたしの幸せを願ってくれるんだろう。
なんで見捨てないの?
みんなはわたしの生い立ちに同情するのに、問題じゃないなんて初めて言われた。
「家族を知らないならこれからゆっくり知っていけばいい。ただそれだけのことだろ。世の中、知らないことがあるなら誰かや何かに教えてもらっていけばいいんだよ。みんな、最初から全部知ってるわけじゃない」
「うぅっ……」
泣きすぎて嗚咽が漏れる。
ずっとわたしを縛り付けていた呪いが柊磨の言葉によってするすると解けていく。



