『お前、藍原さんのこと気に入ってただろ?なのに結婚しちまってよかったのか?』
自分の名前が聞こえてきて思わず立ち止まってしまったのがいけなかった。
彼はなんて答えるんだろう。
ちょっとは後悔してくれてるかな?
なんて、期待したわたしがバカだった。
『家族を知らないやつと家族になんてなれねえよ』
呆れたように短く鼻で笑った彼。
その瞬間、頭が鈍器でガツン、と殴られたかのような衝撃を受けた。
好きな人に、初めて恋した人にそんなふうに思われていたなんて。
放心状態でしばらくその場から動けなかった。
結婚したことよりも彼にそう思われていたその事実の方がショックで我に返り、零れ落ちそうになる涙をぎゅっと唇を強く噛みしめて堪え、トイレに駆け込むと同時に我慢していた涙がポロポロと瞳から溢れ出てきた。
『珠莉ちゃんは勉強も頑張ってて偉いね』、『珠莉ちゃんはいいお嫁さんになりそうだね』と言って優しく笑ってくれていたけど、心の中では嘲笑っていたのかな。
苦しい。悲しい。辛い。
すべてが混ざりあってグチャグチャになる。
一番、幸せにしてほしかった人に否定されたわたしはその日から幸せになることを諦めた。



