「たとえ親がいなくたってわたしも他の人みたいに誰かを好きになって、誰かと結婚して、幸せな家庭を作れるって信じてた」
過去形になってしまうのは今はもう信じていないから。
暗くなっている雰囲気をどうにかしようと、ぎこちない笑顔を向けると、彼は真剣な表情でわたしをじっと見つめていた。
「でも、ダメだった」
ぽつりと呟いた言葉は思っていたよりも小さなもので、脳裏に焼き付いたまま離れないあの光景がぼんやりと蘇ってきた。
15歳の冬にわたしは初めて恋した人が別の女性と結婚したことであっけなく失恋した。
そう、寺嶋誠だ。
誰にでも分け隔てなく優しくて、別にわたしが特別扱いされていたわけじゃないけど時折向けられる笑顔や視線、言葉から気に入られていた自覚はあった。
そんな彼の態度にまだ幼かったわたしはいとも簡単に恋に落ちた。
彼が結婚したことはショックだったけど、年齢差もあったからこの恋が現実的ではないことくらいわたしにだってわかっていた。
でも、彼が結婚して数日経ったある日、彼と他の職員の会話をたまたま聞いてしまったのだ。



