『親がいないのによくそんな顔で笑えるね』
遠い昔、クラスメイトに言われたことが脳裏に浮かんだ。
小学校の高学年だったとはいえ、まだ子供だったからイジメてやろうとかそんな気持ちで言ったわけじゃないと思う。
わたしを見る目が、表情が、哀れんでいて、『わたしだったらそんなふうに笑えない』と親がいることが当たり前の世界で生きてきた人から出た本心の言葉だったんだ。
わたしはあの時も曖昧に笑って返したんだっけ。
忘れちゃった。
「……り……珠莉?」
名前を呼ばれてハッとして自分の世界から戻ってくると、いつの間にか目の前にあった柊磨の手はなくて、心配そうにわたしを見つめているみんながいた。
「ご、ごめんなさい……。褒めてもらうの慣れてなくて……」
「はあ、これだからコイツは困る」
わたしの頭を撫でようと手を伸ばした時、ブーブーとバイブレーションの音が聞こえた。
それは柊磨のスマホが震えている音だった。
彼は伸ばしていた手を引っ込めてスマホを取り出し画面を見て、いつになく真剣な表情で「ごめん、ちょっと出てくる。すぐ戻るから」とだけ言うと電話に出ながらバイクの鍵を手に取ると電話の相手に「今から行くから待ってろ」と言って部屋から出て行ってしまった。
どこに行ったんだろう。
みんなが何も言わないってことはこういうのはよくあることなのかもしれない。



