10数年後。
ポカポカ陽気の昼下がり。
とある家のリビングで、夫婦とその娘がお昼ご飯を食べていた。
「でね、パパはピンクに輝くダイヤが散りばめられたこの指輪をママに差し出しながら、『ずっと一緒にいたいと思ってる。結婚して下さい』ってプロポーズしてくれたの!ね、素敵でしょう?」
妻と思われる女性が、うっとりとした表情で隣にいる幼い娘に話しかける。
「しゅてき!パパ、かっこいい!」
娘は楽しそうにキャッキャッと笑っている。
その向かいでは、夫が箸と茶碗を持ったまま耳を真っ赤にして俯いている。
「・・・ママ、もうその話はいいじゃないか。それに心(こころ)はまだ2歳なんだから、そんな話しても退屈なだけだよ」
「そんな事ないよ。心、いつも楽しそうに聞いているよ。こんな素敵なエピソードは何回話しても話し足りないよ。ね、心もそう思うよね?」
「思うー!」
盛り上がる女性2人を前に旗色悪しと思ったのか、夫は後ろを振り向いて、縁側で寛いでいる愛犬に助けを求める。
「なぁ、レムからも何とか言ってくれよ〜。レムは俺の味方だよな?」
レムと呼ばれた愛犬は閉じていた目を片方だけ開けると、ワフン、と小さく鳴いて再び目を閉じた。
「何だよ〜。連れないなぁ」
「残念でした!レムはママの味方なんです。パパのプロポーズエピソードを披露することにも賛成してくれてるんだから!」
「賛成してくれたって、いつ?」
「それは数ヶ月前に夢で・・・」
ハッと妻は何かに気づいたように慌てて口をつぐんだ。
「・・・じゃなくて、何となくそう思ってくれてるんじゃないかな?って話!」
そう言って笑って誤魔化す。
『侑芽ちゃんは本当に望夢君のことが大好きじゃのう。でも望夢君は照れ屋じゃから、ま、ほどほどにしといてあげなされ』
妻の頭にはこの言葉が蘇る。
(ごめんレム。あんまり言うとのんちゃん照れちゃうよね。次から気を付けるから)
妻が心の中でそんなことを思っていると、隣の娘から「ごちそうさまでしたー!」の声が聞こえてきた。
「あら、心。ご飯全部食べて偉いね。じゃあママたちと何かして遊ぶ?」
「心、お外行きたーい!こんちゅー見るの!」
それを聞いた途端、夫の目がキラリと光った。
「おーそうかそうか。心は昆虫を見に行きたいか。じゃあみんなで森林公園に行こう。今の時期は綺麗なチョウチョや、心の好きなテントウムシも見れるよ」
「やったー!」
夫は立ち上がると、嬉しそうにはしゃぐ娘を抱き上げた。
「じゃあ俺は心を着替えさせるよ。レムも行けるかな?」
「カートがあれば大丈夫だと思うけど、レムの様子も見てみるね。先に心を着替えさせておいて」
夫と娘がリビングから出ていくと、妻は愛犬のそばに座った。
「レム、お散歩行くけどレムも行く?」
眠そうにしていた愛犬だったが、お散歩というワードが出た途端、ピクッと耳を動かして目を開けた。
「よし、じゃあ行こう!パパと心は草むらを駆け回るだろうから、私達はベンチでのんびりしておこうね」
そう言って、愛犬を乗せるためのカートを用意する為に玄関に向かった。
家族全員でやってきた森林公園には、芝桜が鮮やかに咲き誇っている。
夫と娘が楽しそうにチョウチョを追いかけている所を、妻はベンチに座りながら眺めている。その膝の上には愛犬が幸せそうに日向ぼっこをしている。
「良い天気だねぇ。レム」
声を掛けてみると「ムニャムニャ」と言う返事が返ってきた。どうやら昼寝をしているらしい。
「あらま、寝ちゃったんだね。じゃあ私は本でも読んでいようかな」
片手で愛犬を撫でながら、もう片方の手で文庫本を開く。
本の表紙には「世界のミステリー傑作選2」と書いてあった。
ポカポカ陽気の昼下がり。
とある家のリビングで、夫婦とその娘がお昼ご飯を食べていた。
「でね、パパはピンクに輝くダイヤが散りばめられたこの指輪をママに差し出しながら、『ずっと一緒にいたいと思ってる。結婚して下さい』ってプロポーズしてくれたの!ね、素敵でしょう?」
妻と思われる女性が、うっとりとした表情で隣にいる幼い娘に話しかける。
「しゅてき!パパ、かっこいい!」
娘は楽しそうにキャッキャッと笑っている。
その向かいでは、夫が箸と茶碗を持ったまま耳を真っ赤にして俯いている。
「・・・ママ、もうその話はいいじゃないか。それに心(こころ)はまだ2歳なんだから、そんな話しても退屈なだけだよ」
「そんな事ないよ。心、いつも楽しそうに聞いているよ。こんな素敵なエピソードは何回話しても話し足りないよ。ね、心もそう思うよね?」
「思うー!」
盛り上がる女性2人を前に旗色悪しと思ったのか、夫は後ろを振り向いて、縁側で寛いでいる愛犬に助けを求める。
「なぁ、レムからも何とか言ってくれよ〜。レムは俺の味方だよな?」
レムと呼ばれた愛犬は閉じていた目を片方だけ開けると、ワフン、と小さく鳴いて再び目を閉じた。
「何だよ〜。連れないなぁ」
「残念でした!レムはママの味方なんです。パパのプロポーズエピソードを披露することにも賛成してくれてるんだから!」
「賛成してくれたって、いつ?」
「それは数ヶ月前に夢で・・・」
ハッと妻は何かに気づいたように慌てて口をつぐんだ。
「・・・じゃなくて、何となくそう思ってくれてるんじゃないかな?って話!」
そう言って笑って誤魔化す。
『侑芽ちゃんは本当に望夢君のことが大好きじゃのう。でも望夢君は照れ屋じゃから、ま、ほどほどにしといてあげなされ』
妻の頭にはこの言葉が蘇る。
(ごめんレム。あんまり言うとのんちゃん照れちゃうよね。次から気を付けるから)
妻が心の中でそんなことを思っていると、隣の娘から「ごちそうさまでしたー!」の声が聞こえてきた。
「あら、心。ご飯全部食べて偉いね。じゃあママたちと何かして遊ぶ?」
「心、お外行きたーい!こんちゅー見るの!」
それを聞いた途端、夫の目がキラリと光った。
「おーそうかそうか。心は昆虫を見に行きたいか。じゃあみんなで森林公園に行こう。今の時期は綺麗なチョウチョや、心の好きなテントウムシも見れるよ」
「やったー!」
夫は立ち上がると、嬉しそうにはしゃぐ娘を抱き上げた。
「じゃあ俺は心を着替えさせるよ。レムも行けるかな?」
「カートがあれば大丈夫だと思うけど、レムの様子も見てみるね。先に心を着替えさせておいて」
夫と娘がリビングから出ていくと、妻は愛犬のそばに座った。
「レム、お散歩行くけどレムも行く?」
眠そうにしていた愛犬だったが、お散歩というワードが出た途端、ピクッと耳を動かして目を開けた。
「よし、じゃあ行こう!パパと心は草むらを駆け回るだろうから、私達はベンチでのんびりしておこうね」
そう言って、愛犬を乗せるためのカートを用意する為に玄関に向かった。
家族全員でやってきた森林公園には、芝桜が鮮やかに咲き誇っている。
夫と娘が楽しそうにチョウチョを追いかけている所を、妻はベンチに座りながら眺めている。その膝の上には愛犬が幸せそうに日向ぼっこをしている。
「良い天気だねぇ。レム」
声を掛けてみると「ムニャムニャ」と言う返事が返ってきた。どうやら昼寝をしているらしい。
「あらま、寝ちゃったんだね。じゃあ私は本でも読んでいようかな」
片手で愛犬を撫でながら、もう片方の手で文庫本を開く。
本の表紙には「世界のミステリー傑作選2」と書いてあった。


