午前7時45分。侑芽、レム、杏奈の3人は絵空駅の改札にいた。
「ここから入って、階段登ってホームに出るんです」
3人は切符を買って改札を通る。
(ICカードもない世界になっているようだ)
階段は左右に分かれており、左を登ると1番線と2番線共通のホーム。右が3番線のホームに出るようになっている。
慎也が降車したとされる1番線への階段を登ってホームに出ると、駅特有の突風が吹き抜けた。
ホームの中央にはアリバイの証明となった売店もある。
侑芽は周りを見渡し、3番線のホームに目を向ける。
2番線に電車が来ていないのでここからよく見えた。
杏奈が言っていた通り、ホームの端は繋がっていないので、一度階段を降りて迂回するしかない。
「侑芽ちゃん。僕で良かったら、本当に1分で乗り換えができないか走って確かめましょうか?」
レムが提案してくれるが、それには問題があった。
「レム、気持ちは嬉しいんだけど、レムは一般人より走るのが早すぎて参考にできないよ。
怪我でもしたらいけないし、他のお客さんもいるしね」
「それもそうですね。分かりました」
一応その後、杏奈が歩いて乗り換えの時間を検証してみたが、約2分だった。
走れば多少は縮むかも知れないが、慎也が来た時は平日の通勤通学の時間帯だったので、今日よりも混雑していたはず。走ることはできなかったと予想できる。
しかも慎也は売店で水まで購入している。
確かに1分で乗り換えは無理そうだ。
「一体どうやって乗り換えたんだろ・・・」
侑芽が口元に手を当てて考えていると、若い男性の駅員が通りかかった。
「あの、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・」
駅員が振り返る。
「はい。何でしょうお客様」
「先週の金曜日の今くらいの時間に、電車が遅れた、なんてことは・・・」
「先週の金曜日ですか?ええっと・・・」
駅員は内ポケットから手帳を出してめくった。
「いや、ここしばらく遅延はないですね」
「そうですか。あの、ちなみに線路に降りて隣のホームに渡った人がいたなんてことは・・・」
「まさか!そんな危ない人がいたら大騒ぎになっていますよ。職員の間でもそのような方がいたという報告は上がってきていません」
ですよねぇ、と言って侑芽は再び考えこむ。
防犯カメラやICカードの利用履歴を調べることができれば手がかりになるのだが、今の世界ではやはり難しい。
「あの〜。なぜそのような事をお聞きになるのですか?当駅で何か問題でも・・・?」
駅員が訝しげに尋ねる。セーラー服の女学生が謎の質問をしてくるのだから怪しんで当然だ。
「あ、突然すみませんでした。私、探偵の越智と申しまして、こちらの方のご依頼内容を調査するために質問させて頂きました」
「探偵・・・。越智さん?」
「はい。この駅には何も問題はありませんのでご安心下さい。では、お仕事中に失礼しました」
侑芽たち一行が一礼して立ち去ろうとすると、駅員は慌てた様子で前に回り込んできた。
「探偵の越智って、以前この路線で起きた事件を解決なさった越智先生ですか!?」
「えぇ、まぁそうです」
「では、こちらの方は助手のレムさんですね。お二人のことは先輩から伺っています。
何だ、早く言って下されば良いのに!その節はお世話になりました」
「いえいえそんな。こちらこそお世話になりました」
「今回はどういった事件の捜査で?」
「あ、すみません。ご依頼内容は守秘義務があるのでちょっと・・・」
「あぁ、そうですよね。これは失礼しました。
お2人には今後も捜査協力するように上から言われているんです。何かお手伝いできることはありませんか?」
ありがたい申し出に、侑芽はお願いすることにした。
「では、この駅の時刻表を貸して頂いても良いですか?あと、先ほどお聞きした日時に何か変わったことがなかったか、他の駅員さんにも聞いて頂けたらありがたいです。手が空いた時で大丈夫なので」
「お安いご用ですよ。自分はちょうど今から休憩で、時間があるのですぐに聞いてきます。少し待っていて下さい」
親切な駅員は軽い足取りで階段を降りていった。
待っている間に、例の売店にも聞き込みに行った。
店員の婦人は先週の金曜日のこの時間も店にいたそうだが、特に変わった出来事はなかったと言う。
毎日たくさんの利用客がいるので、慎也のことも覚えていないそうだ。
そうこうしている内に、先ほどの駅員が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが時刻表です。事務所から持ってきました。お配りしているものなのでどうぞそのままお持ちください。
ついでに事務所にいた職員に問題の日時の出来事を聞いてみましたが、誰も特に思い当たることはないと・・・」
「そうですか。すみません。お手数をおかけしました。ありがとうございました」
「いえいえ。また何かあればおっしゃって下さい」
駅員と別れたあと、ホームのベンチに座り、3人で時刻表を覗き込む。
乗り換えの順序と時間は、慎也が杏奈に話した内容とピッタリ一致していた。
「慎也さん、本当に暗記されているんですね。すごいです」
「まぁ、慎也の鉄道好きは筋金入りなので・・・。
大学院でも鉄道に関わる事を専攻する予定なんです」
そんな鉄道好きの用いたトリックを果たして見抜けるだろうか。
細かい数字と睨めっこしながら侑芽は眉間に皺を寄せる。
(大丈夫。私の夢に、私の知らない知識は出て来ないんだから。必ず解けるはず!)
食い入るように見ていたせいか、だんだん目が霞んできた。
ように思えたが、原因は別にあったらしい。
レムが侑芽の肩を軽く叩く。
「侑芽ちゃん、今回はここまでのようです」
ハッとして周りを見渡すと、白い霧に覆われていた。
夢中になりすぎて、空からの霧に気付いていなかった。
「あ、本当だ。とりあえずここまでかぁ」
「なんか、今回はいつもよりタイムアップが早いですね」
「今日、日直だから早めに起きなきゃなの。だからだと思う。
でも明日は土曜日だからゆっくり寝れるし、大丈夫だよ」
「分かりました。では侑芽ちゃん、気をつけて行ってらっしゃい」
レムの言葉が聞こえたとほぼ同時に、侑芽の意識は遠くなった。
「ここから入って、階段登ってホームに出るんです」
3人は切符を買って改札を通る。
(ICカードもない世界になっているようだ)
階段は左右に分かれており、左を登ると1番線と2番線共通のホーム。右が3番線のホームに出るようになっている。
慎也が降車したとされる1番線への階段を登ってホームに出ると、駅特有の突風が吹き抜けた。
ホームの中央にはアリバイの証明となった売店もある。
侑芽は周りを見渡し、3番線のホームに目を向ける。
2番線に電車が来ていないのでここからよく見えた。
杏奈が言っていた通り、ホームの端は繋がっていないので、一度階段を降りて迂回するしかない。
「侑芽ちゃん。僕で良かったら、本当に1分で乗り換えができないか走って確かめましょうか?」
レムが提案してくれるが、それには問題があった。
「レム、気持ちは嬉しいんだけど、レムは一般人より走るのが早すぎて参考にできないよ。
怪我でもしたらいけないし、他のお客さんもいるしね」
「それもそうですね。分かりました」
一応その後、杏奈が歩いて乗り換えの時間を検証してみたが、約2分だった。
走れば多少は縮むかも知れないが、慎也が来た時は平日の通勤通学の時間帯だったので、今日よりも混雑していたはず。走ることはできなかったと予想できる。
しかも慎也は売店で水まで購入している。
確かに1分で乗り換えは無理そうだ。
「一体どうやって乗り換えたんだろ・・・」
侑芽が口元に手を当てて考えていると、若い男性の駅員が通りかかった。
「あの、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・」
駅員が振り返る。
「はい。何でしょうお客様」
「先週の金曜日の今くらいの時間に、電車が遅れた、なんてことは・・・」
「先週の金曜日ですか?ええっと・・・」
駅員は内ポケットから手帳を出してめくった。
「いや、ここしばらく遅延はないですね」
「そうですか。あの、ちなみに線路に降りて隣のホームに渡った人がいたなんてことは・・・」
「まさか!そんな危ない人がいたら大騒ぎになっていますよ。職員の間でもそのような方がいたという報告は上がってきていません」
ですよねぇ、と言って侑芽は再び考えこむ。
防犯カメラやICカードの利用履歴を調べることができれば手がかりになるのだが、今の世界ではやはり難しい。
「あの〜。なぜそのような事をお聞きになるのですか?当駅で何か問題でも・・・?」
駅員が訝しげに尋ねる。セーラー服の女学生が謎の質問をしてくるのだから怪しんで当然だ。
「あ、突然すみませんでした。私、探偵の越智と申しまして、こちらの方のご依頼内容を調査するために質問させて頂きました」
「探偵・・・。越智さん?」
「はい。この駅には何も問題はありませんのでご安心下さい。では、お仕事中に失礼しました」
侑芽たち一行が一礼して立ち去ろうとすると、駅員は慌てた様子で前に回り込んできた。
「探偵の越智って、以前この路線で起きた事件を解決なさった越智先生ですか!?」
「えぇ、まぁそうです」
「では、こちらの方は助手のレムさんですね。お二人のことは先輩から伺っています。
何だ、早く言って下されば良いのに!その節はお世話になりました」
「いえいえそんな。こちらこそお世話になりました」
「今回はどういった事件の捜査で?」
「あ、すみません。ご依頼内容は守秘義務があるのでちょっと・・・」
「あぁ、そうですよね。これは失礼しました。
お2人には今後も捜査協力するように上から言われているんです。何かお手伝いできることはありませんか?」
ありがたい申し出に、侑芽はお願いすることにした。
「では、この駅の時刻表を貸して頂いても良いですか?あと、先ほどお聞きした日時に何か変わったことがなかったか、他の駅員さんにも聞いて頂けたらありがたいです。手が空いた時で大丈夫なので」
「お安いご用ですよ。自分はちょうど今から休憩で、時間があるのですぐに聞いてきます。少し待っていて下さい」
親切な駅員は軽い足取りで階段を降りていった。
待っている間に、例の売店にも聞き込みに行った。
店員の婦人は先週の金曜日のこの時間も店にいたそうだが、特に変わった出来事はなかったと言う。
毎日たくさんの利用客がいるので、慎也のことも覚えていないそうだ。
そうこうしている内に、先ほどの駅員が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが時刻表です。事務所から持ってきました。お配りしているものなのでどうぞそのままお持ちください。
ついでに事務所にいた職員に問題の日時の出来事を聞いてみましたが、誰も特に思い当たることはないと・・・」
「そうですか。すみません。お手数をおかけしました。ありがとうございました」
「いえいえ。また何かあればおっしゃって下さい」
駅員と別れたあと、ホームのベンチに座り、3人で時刻表を覗き込む。
乗り換えの順序と時間は、慎也が杏奈に話した内容とピッタリ一致していた。
「慎也さん、本当に暗記されているんですね。すごいです」
「まぁ、慎也の鉄道好きは筋金入りなので・・・。
大学院でも鉄道に関わる事を専攻する予定なんです」
そんな鉄道好きの用いたトリックを果たして見抜けるだろうか。
細かい数字と睨めっこしながら侑芽は眉間に皺を寄せる。
(大丈夫。私の夢に、私の知らない知識は出て来ないんだから。必ず解けるはず!)
食い入るように見ていたせいか、だんだん目が霞んできた。
ように思えたが、原因は別にあったらしい。
レムが侑芽の肩を軽く叩く。
「侑芽ちゃん、今回はここまでのようです」
ハッとして周りを見渡すと、白い霧に覆われていた。
夢中になりすぎて、空からの霧に気付いていなかった。
「あ、本当だ。とりあえずここまでかぁ」
「なんか、今回はいつもよりタイムアップが早いですね」
「今日、日直だから早めに起きなきゃなの。だからだと思う。
でも明日は土曜日だからゆっくり寝れるし、大丈夫だよ」
「分かりました。では侑芽ちゃん、気をつけて行ってらっしゃい」
レムの言葉が聞こえたとほぼ同時に、侑芽の意識は遠くなった。


