二人は馬車に揺られていた。
 目の前には、車窓から街を眺めるジョシュア。
 

 御者台にはアランが乗っていた。
 おもむろにジョシュアが口を開く。

「……マイア」
「は、はい! なんでしょう!」
「たとえ今回の夜会で君が失敗しても、俺がカバーする。ダンスはセーレから習ってきただろう?」
「はい。まだまだ未熟ですが、ジョシュア様についていけるようにがんばります!」

 ジョシュアはうなずいた。
 今回は堅物公爵が婚約を交わしたということもあり、注目度も高いだろう。
 マイアに衆目が集まって緊張するに違いない。

 だから予め安心するような言葉を、ジョシュアはかけておいた。

「今日は君の悪評を払拭できるチャンスだと考えている」
「私の悪評を?」
「俺もマイアが噂通りの悪女ではないと、親密な者たちに流布するつもりだ。今後、君が大手を振って貴族たちと交流できるようにな」
「でも、そんな簡単に評価が覆るものでしょうか?」
「ふっ……公爵の一声は伊達ではない。必ず、君が優しく素敵な女性であると証明してみせよう」
「ジョシュア様……ありがとうございます」

 ジョシュアは柔らかく笑う。
 そこに冷酷公爵の影はなかった。