「うぅ……」

 夜会当日。
 マイアは緊張していた。

 エイミーからいろいろ教えてもらって、緊張しないと決心したのにもかかわらず。
 なにせ自分は評判の悪い人間だ。
 おまけに社交界に出たことがない。

 そんなマイアが、いきなり公爵夫人として紹介されたらどうだろう。周りの貴族はきっといい顔をしない。

「マイア様、お時間ですよ」
「セーレ……わかっているわ。今行く」

 だがしかし、ジョシュアを待たせるわけにもいかず。彼女は着慣れていないドレスを入念にチェックした。

 そんな彼女を見て、セーレは微笑んだ。

「大丈夫です。マイア様の近くには旦那様がいてくださいますから。マイア様はいつも通り、普段と変わらない振る舞いを」
「そうよね……うん、大丈夫。だって私には誰よりも優しいジョシュア様がついているのだから!」

 マイアの役目は最初から変わらない。
 ジョシュアの妻として振る舞うこと。

 笑顔を浮かべて愛想よく振る舞えばいいだけなのだ。

「ねえセーレ、笑顔はどうかしら?」

 マイアは愛想のよい笑みを浮かべた。

「はい、とってもかわいらしいです! これはジョシュア様も大好きになってしまうのも納得ですね!」
「そ、そう? じゃあ……この足さばきは?」

 続いて、マイアは今日の夜会に向けて練習したダンスを披露する。セーレに教えてもらったのだ。
 ジョシュアに迷惑をかけないよう、できるだけ完璧なダンスを身につけたはず。

「はい、とっても綺麗です! これは他の貴族の方々を圧倒してしまうかと!」
「ふふ……セーレは褒め上手ね。でもありがとう。あなたのおかげで少し自信が持てたわ」

 準備は万全だ。
 あとは全力でエスコートに応えるだけ。

「それでは行ってきます」
「はい、お気をつけて」

 セーレに見送られ、マイアは馬車に向かった。