「……あれ?」

 見知らぬ天井だ。
 強烈な違和感を覚えたマイアは、ゆっくりと起き上がる。
 背中が痛くないし、寒くない。

「そっか、私……」

 公爵家に嫁いだことを思い出す。
 もう古びた小屋で寝泊まりはしなくてもいいのだと。

 ふかふかのベッドで、一度も目覚めることなく熟睡していた。
 こんなに寝覚めがいいのはいつ以来だろう。

 実感をひしひしと感じていた。
 寝ぼけまなこをこすっていると、部屋の扉がノックされる。
 入ってきたのはセーレだった。

「はいどうぞ」
「失礼します。おはようございます、マイア様。お目覚めでしたか」
「今起きたところよ。本当に快適なベッドで、ぐっすり眠れたわ」
「それはよかったです」

 寝不足のせいで怠かったマイアの身体から、疲れがいくらか取れたように思う。いつも寝起きにかけていたおまじないも、今はもう必要ない。

「今朝は旦那様が朝食を共にするよう仰られていました。
 多忙な旦那様ですが、初日くらいは一緒に行動したいとのことです」
「……! す、すぐに準備しないと!」
「マイア様、落ち着いてください。まだ朝食まで一時間もありますから」

 慌ただしいマイアを制止し、セーレは彼女の身支度に取りかかる。
 髪梳きからドレスの用意まで、使用人のセーレが担当する。

 マイアを鏡台の前に座らせると、彼女は困惑したように声を上げた。