「うん。」

坂野琢磨に名前を言われて
亜由美は恥ずかしそうに
コクりと頷いた。

「なんだ、やっぱり?
久しぶりだな!
元気だったか?」

「ごめん、急に名前なんて
呼んで。」

「いや、牧野のイメージが
変わっちゃったから
分からなかったよ。
ごめん、ごめん」

亜由美はその言葉にまた
胸がキュンとなるのを感じた。

坂野に席を案内され、
カットとカラーをお願いした。

「今、大学?」

坂野は準備しながら、
さっきから、雑誌に夢中な
亜由美に声をかけた。

「うん。一人暮らし始めて
大学に通ってるよ。」

「へぇ〜牧野は頭良かったもんな。」

「そんなことないよ。
坂野くんこそ、もう働いてる
なんてすごいね。」

「あぁ、この店は俺の従兄弟がオーナーで
特別に見習いで今月からバイト
やらせてもらってるんだ。
簡単な手伝いだけな。」

「仕事、大変?」

「まぁな。
でも好きなことだからさ」

坂野の真剣な眼差しを見て
亜由美は自分がまだ坂野のことを
忘れられていなかったことに
気付いた。