出会ったのは先月。
ちょうど夏休みが終わろうと
していた時だった。

亜由美は美容院にいた。
カットとカラーをお願いして
いつもの様に雑誌を食い入る
ように読みながら順番が
くるのを待っていた。

順番になり、席につくと
担当の美容師が来た。

「本日、担当させて頂く坂野です。
よろしくお願いします。」

亜由美は顔をあげ、ドキッとした。

彼の顔に見覚えがあったからだ。

彼は間違いなく、
亜由美にとって大切な思い出の一人だった。

「坂野…琢磨…?」

「えっ?」

亜由美は自分が無意識に名前を
口にしてしまったことが
恥ずかしくなり、慌ててしまった。

「あっ、えっと…
その…あのぉ
坂野琢磨さんですよね?」

坂野は目を丸くしながら、
ゆっくり首を縦に振った。

「もしかして…」

坂野は思い出すように、
亜由美の顔を見つめた。

「牧田亜由美?」

亜由美は嬉しかった。
彼が坂野琢磨だとわかった瞬間
胸が苦しくなるのを感じた。

自分のことなんて覚えてない。
期待しちゃいけないんだと
自分に言い聞かせていた。