早く就職したいと考えながらのバイトの帰り。いつもの夜道だが、あの場所が目に入って足が止まる。

 しかし、ここを通らなければ少し遠回りになってしまう。

 街灯は更地(さらち)を薄暗く照らしている。空き地と一家惨殺の家に挟まれた道を通るのは、気が滅入るというものだ。

 バイトで疲れている身で遠回りなんて冗談じゃない、早く帰ってゆっくりしたい。仕方なく意を決して歩き出す。

「──え?」

 見ないようにしていたのについ、空き地に目が向いてしまった。

 俺は目を疑った。薄暗い街灯に硬い土がぼうっと照らされて、そこに何かがいる。

 真ん中に空いている穴は真っ黒で、その上に黒い影が立っていた。いや、ゆらゆらと浮いていた。俺の身長より高く、百九十センチくらいはあるだろうか。

 それを見た途端、俺の足は道路に固定されたように動かなかった。

「やばい……。やばいやばいやばいやばい」

 あまりの恐怖に、無意識に声が出る。黒い影は穴から離れて、浮いたままこっちに近づいてくるじゃないか。

 震えが止まらない。立ちすくんでいると、黒い影は俺の数十センチの距離まで詰めてきた。

「ひっ──!?」

 おかしい、真っ黒い影なのに、ぽっかり空いた二つの穴は、真っ黒い目なのだと解る。

 だめだ、目を合わせ続けるのは危険だ──俺はなんとか逃げようとしたが、やはり足はいっこうに動かない。

 黒い影はさらに顔を近づけてくる。息づかいまでもが聞こえてきそうだ。