それから数日が過ぎ、「あらあ、こんにちは。いまからバイト?」
「あ、はい」
噂好きのおばさんにつかまった。愛想笑いで軽く会釈すると、話したくて仕方が無かったのか開口一番、あの事件について勝手に喋り始めた。
「あそこの奥さんと仲の良い女性が訪ねて行ったら、玄関ドアが少し開いてたんですって。呼び鈴を何度鳴らしても返事がないのに、変だなーと思って入ったら……」
おばさんは、あとの言葉を切って、すくめた肩をぶるると震わせた。
その女性が見た光景は、あまりにも凄惨だったそうだ──台所で奥さんが、リビングで旦那さんが、子供部屋で息子さんが──それぞれに亡くなっていた。
それも、何かとても怖いものを見たような凄まじい恐怖の面を貼り付けて、あちこちから血を吹き出して倒れていた。
「それでねえ」
それだけでも怖いと思えるのに、おばさんの口からはさらに恐ろしい話が紡がれた。
おばさんは顔を近づけて、俺の他は誰も聞いていないのに、小声でささやくように「みんな、窒息して亡くなってたらしいのよ」
「え?」
「苦しそうに首をかきむしってて、干からびてたんだって。体中の水分がほとんどなかったみたいよ」
あまりにもの形相に、刑事たちも驚いて思わず後退ったとか。
「事情を聞くために彼女の家に行った刑事さんたちね。発見したときの状況を聞き出すのも大変だったらしいわよ」
第一発見者の女性は、とにかく怯えきっていて、今も家から一歩も出てこず引きこもっている。
「そうなんですか」
そんなに怖い光景だったのかと、聞いた俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。おばさんは話した事で満足したのか、すぐに家に戻っていった。
そうして、門の柱に規制線の張られた家には視線を向けず、空き地の穴をぼんやり眺めて足早に通り過ぎた。



