第二話

〇繁華街の真ん中  辺りにはネオンの派手なお店がいっぱい

土屋、眼鏡を外してポケットに。前髪をかきあげ、後ろにやる。キラキラのイケメンにな

る。久美子、あまりの変身っぷりに言葉も出ない。

土屋「どうしてこんなところに井上さんがいるの?」

久美子、ぼうっとしてたが、話しかけられ正気に戻る。

久美子「あ、土屋君のおうちに行こうとしてたの。今日のノート届けようと思って」
土屋「え?そうなんだ...ありがとう」

意外そうに目を見張る。

久美子「あの、土屋君、学校にいる時と、だいぶ様子が違うけど...どうして?」
土屋「...ちょっとうちの稼業を手伝ってて。二番目の兄貴が風邪ひいちゃって、
  頭数が足りなくなったからなんだ」
久美子「そうなんだ...」

久美子(もっと突っこんで聞いていいのかな。でも質問攻めも変だし)

土屋「あ、井上さん。膝、怪我してるよ」

久美子の右ひざに擦りむいた傷ができている。

久美子「あ、さっきナンパの人に抵抗したとき、膝ついたから」
土屋「...痛い、よね」
久美子「ううん、大したこと、ないよ」

久美子、苦笑い。実は、結構痛い。

土屋「...うちで、傷の手当するよ」
久美子「え、そんな」
土屋「...ちょっとびっくりするかもしれないけど...ついてきて」

すたすた歩き出す土屋。慌ててついていく久美子。

〇ブラックキャッスルという店の前

久美子「大きな看板...ここが、土屋君のおうち?」
土屋「うん。裏から入れるから」

久美子、土屋の後をついて行く。店の裏に、立派な邸宅の玄関。表札に土屋とある。

玄関から入っていくと、ピカピカの室内。いたるところにバラの花が飾ってある。

家具や壁は黒で統一してある。リビングのソファに座らされる。ものものしいので、久美

子さすがにどういう商売なのか気になってキョロキョロする。

久美子「あの...土屋君の、おうちって一体なにを」
薫「マー、遅かったな」

不意に奥のドアが開いて、背の高い男性が入ってくる。金髪で短い髪。整

った顔立ち。すごいイケメンでキラキラ。明らかに20代の大人。

土屋「兄さん」

久美子(お兄さんもキラキラ度がすごい!)

薫「うん?お客さんかな」
土屋「クラスメートの井上さん。僕が学校休んでたから、授業のノート持ってきてくれた
  んだ。あと、怪我してるし」
薫「そうだったのか。マー、救急箱と、ベイビーたちからもらったケーキあるから、
  もってきなさい」
土屋「取ってくるよ」

土屋、薫が入ってきたドアから出ていく。

久美子「あの、おかまいなく」

薫、久美子に近づいて、にっこり微笑む。
薫「井上さん、どうもありがとう。マーの友達がくるなんて、珍しいことだよ。マー
  は、自分のことを話さないから、少しきいてもいいかな?」

久美子、薫の丁寧な態度に心がすこしほぐれる。

久美子「私のわかる範囲でよければ...」
薫「ありがとう。マーは、学校じゃどう?どんな風に過ごしてるのかな」
久美子「..いつも大人しくて。本を読んでることが多いです」

薫「やっぱり...陰キャなんだね」
久美子「えっと、あの」

久美子(なんか、フォローしてあげたいけど、思いつかない!)

薫「いいんだ。マーは、根が優しいから、ベイビーの悩み事とか聞いて、もろに
 食らっちゃうんだよなあ。学校で使う分のエネルギー消費しちゃうっていうか。俺くらいになると、すぱっと切り替えることができるんだけど」
久美子「あの…さっきから仰ってるベイビーって...」
薫「あ、うちの店のお客様は、皆ベイビーって呼んでるの。何歳でも、どんな人でも、
  赤ちゃんみたいにくつろいでほしいからね」
久美子「お店ってどういう...?」
薫「それ、言わないでマー、君を連れてきたの?ごめんね。びっくりしたよね。ここは、
  ブラックキャッスルって言う名前のホストクラブなんだ」

久美子「ホストクラブ!」

薫「うん。俺は、ここのリーダー兼オーナー代理の土屋薫。マーの一番上の兄貴。次男
 の邦男が風邪で寝込んでて。俺が今日、朝から用事があったから、末っ子のマーに店の仕込みとか、邦男の看病とかさせちゃってね。悪いけど学校休んでもらったんだ」

久美子「そうだったんですね。よかった土屋君、病気じゃなくて」

ほっとした顔をする久美子。その顔を見て、にっこりする薫。

薫「よかった。マーに、いい友達がいるみたいで」
久美子「友達っていうか...」

久美子(まだ友達っていうのも図々しいよね)

薫「井上さん、ホストクラブってどんなイメージ持ってる?」
久美子「え、えーと…女の人がお酒をいっぱい飲まされる…あとシャンパンのタワーとか」

薫「そうだよね。華やかなイメージがあると思うんだけど、結構ヘビーなお客様が多いんだ。ホストにつぎ込むお金がある女性は、大抵、会社とかお店を経営してて、ストレスがハンパなくて。病院に行くくらいのストレス抱えてるよ」

久美子「そんなに…」
薫「そう。だから聞き上手のマーにはまるベイビーもたくさんいてさ。マーはおかげでそのストレスをバーンと食らっちゃうってわけ。俺らには言わないけど、かなりきついと思うんだ」

久美子(あ、さっき言ってた食らっちゃうってそういう意味なんだ…)

薫「だから学校でも疲れてるだろうから、井上さんよろしくね」
久美子「はあ…」

土屋「ごめん、やっと救急箱見つけた」

土屋、片手に救急箱、片手にケーキの箱を持ってくる。

薫「あー、邦男が変なとこしまい込む癖があるからな。俺はお茶をいれてくるよ」

薫、キッチンにひっこむ。土屋が久美子の側に跪く。

土屋「ちょっと沁みるかも」

土屋、久美子の膝の傷を消毒し、手当する。

久美子「ありがとう。あの、土屋君も、ホストのお仕事、するんだね」
土屋「兄さんから聞いたんだね。うん...人手が足りないときとか、たまに。今日もオープン
   から出ることになってるんだ。次男の邦男兄さんのピンチヒッター」

久美子「じゃあ、ご兄弟でホストのお仕事してる感じ?」
土屋「うん。上の兄二人が中心で。他にも二人、雇ってる」

薫「ヘーイ。紅茶いれてきたぞー。井上さん、アッサムは好き?」
久美子「大好きです」
薫「よかったー。俺、自分で言うのもなんだけどお茶いれるのうまいんだー」

薫が来て、わいわいする。

〇繁華街の外れ

18時頃の道。土屋が久美子を送っている。

久美子「ごめんね。オープン前で忙しいんじゃない?」
土屋「いや...こっちこそ、ごめん。兄さんのおしゃべりにつきあわせて」
久美子「にぎやかで、いいね。楽しいお兄さんだね」
土屋「...井上さんは、ホストに偏見とかないんだね」
久美子「偏見?」
土屋「ホストって人によっては、女を食い物にする、とか言う人、いるから」
久美子「え?そんなの、変だよ。薫さんのお話聞いてたら、お客様を大事にしてるの
   わかるもん」
土屋「そう?」

土屋、ふわっといい笑顔をする。初めて笑った顔を見た久美子。

久美子(土屋君、嬉しそう。お兄さんのこと、好きなんだな)

久美子「土屋君、そんな風に笑ってると、全然陰キャじゃないね」
土屋「陰キャ...」
久美子「あ、ごめん!つい...」

土屋にもろに言ってしまって慌てる久美子。

土屋「いいよ。実際、陰キャだから」

久美子(な、なんかフォローしなきゃ)

久美子「でも、ピンチヒッターでお客さんの相手とかするんでしょ。陰キャじゃできない
    よね~」
土屋「それが...僕、ベイビーさん達からすると、話しやすいらしくて。愚痴とか、悩み事と 
   かずうっと聞かされるんだよね...
   なんか疲れちゃって、学校では静かに過ごしたいんだ...」

はげしくげんなりした様子で言う土屋。

久美子「はあ...」

久美子(あ、薫さんの言ってたとおり、疲れてるんだな)

久美子「でも、人の話を聞けるのって一つの才能だよね。あ、私のため息に反応して、
    アドバイスくれて、仕事柄って言ってたのってそういうこと?」
土屋「うん。女性の悩み相談、受けること、多くって。いろいろ学んだっていうか」
久美子「そういうことだったんだね。実は、今日、土屋君に会いに来たのは、ノートだけ
    じゃなくてね」
土屋「?」

久美子「お礼を言いに来たの。麻田さんに好きな人いるって言ったら、土屋君が言った通
   り、態度が変わったんだよ」
土屋「あ...そうだったんだ...よかった...」

嬉しそうに微笑む土屋。

久美子「うん。だから、改めて。ありがとう、土屋君」

にっこり微笑む久美子。土屋、ドキッとする。

〇駅前に到着する

久美子「じゃ、駅、こっちだから」
土屋「うん。あの、僕がホストやってるって…」

久美子、微笑む。

久美子「うん。誰にも言わないよ」
土屋「ありがとう…!」

ほっとして、土屋が微笑む。久美子、満足した顔をして、駅のホームへ向かう。

〇久美子の自宅の部屋

久美子、ベッドに寝転んで。

久美子(土屋君、別人みたいだったな…あんなキラキラ星人だったんだ。
    びっくりした…でも、話したら、土屋君らしかった…見た目が変わっても中身は   
    変わらないよね)

久美子、にんまりする。

久美子(また、皆の知らない土屋君を知っちゃった…!得した気分♪)


〇翌日の学校。
 
 久美子、普通に登校するが、なんとなく、遠巻きに視線を感じる。
 教室にバタバタと駆け込んでくるめぐみ。久美子の所にダッシュで来る。

久美子「おはよー、めぐちゃん。どうしたの、慌てて」
めぐみ「どうしたのって…なんか、うわさになってるよ、久美子。あんたが土屋のこと
    好きだって!」

久美子(ええっ)