慎ちゃんから電話が来たのは、一月中旬の金曜日だった。

 残業になってしまった私は、講義が長引いたと慶に嘘をついて、パチンコには行かないと伝えていた。ちょうど会社を出るときに慎ちゃんからの連絡を受け、すぐに大通公園へ向かった。

 白い息を吐きながら、西三丁目のベンチに座る。せっかく買ったホットコーヒーも、あっという間にアイスコーヒーになってしまった。

 公園を見渡せば、二月に行われる雪まつりの準備が着々と進んでいた。そこら中からかき集めた雪で雪像をつくり、夜になればライトアップされるらしい。

 私はまだ見たことがない。二月が訪れる前に、慎ちゃんとは別れてしまったからだ。

「寒いな」
「うん、寒いね」
「風邪引くなよ?」
「慎ちゃんこそ」

 一応病み上がりだから、さすがにしっかりと防寒している。あんな高熱はもう二度と経験したくない。

 慎ちゃんは、私の頭や肩についている雪を軽くはらって微笑んだ。

 雪をはらってくれた。ただそれだけ。それでも私は、落ち着いていたはずの気持ちが甦ってきていることに内心焦りつつも、慎ちゃんが触れてくれたことが嬉しかった。

 昔みたいに慎ちゃんしか見えなくなるわけにはいかないのに。あの頃とは何もかもが違う。そうなってしまったら、もうあとに引けない。

 わかっているのに何年経っても馬鹿な私は、慎ちゃんといられるこの時間を大切にしたいと思ってしまっていた。

「明日休みだよな? 用事ある?」

 ただ雪を眺めながら話していたとき、慎ちゃんが唐突に言った。

「ないけど……」
「おれも明日は何もないんだけど」

 どくん、と心臓が跳ねた。

 続く言葉に、私は否定で返せるだろうか。ちゃんとそうしなければいけない。頷いてしまったら終わりだ。

 また慎ちゃんしか見えなくなって、今度こそ全てが壊れてもいいと思ってしまう。

「朝まで一緒にいてくれる?」

 慎ちゃんはずるい。今まで私が必死に保ってきた境界線を、二人で交わしたはずの約束を、いとも簡単に破るのだから。

 断れない私は──結局昔のまま。慎ちゃんが忘れられないまま。

「……うん」

 慶に連絡をしなければいけない。どんな状況でも一応付き合っているのだから、無断外泊はさすがにだめだ。

 わかっているのにしなかった。

 私は本当に、慎ちゃんを忘れる気が、目的を果たす気があるのだろうか。

 もうわからない。