休みボケの威力は冬場が一段とすさまじく、俺と由井は課題を片付けるという名目のもと俺の家に集合したはずなのに、すでに一時間以上こたつに入って寝そべっていた。

 俺はバラエティー番組をぼんやりと観て、由井は今日もスマホゲームに集中している。

「なあ、由井」
「ん」
「おまえ、友達の彼女好きになったことある?」

 つぐみにばれているのなら、どうせ由井も知っているのだろう。カップル間に守秘義務など存在しない。何もかもがつうつうなのだ。

「ない」

「……だよな」

「けど、彼氏いる子好きになったことはある。彼氏とも知り合いだった」

「へえ、なんか意外。いつ? 中学とか?」

「大学」

「え、全然知らなかった。諦めついたんだ」

「諦めてないけど」

「は? だって今はつぐみと……え、まさかつぐみの話?」

 思わず起き上がって由井を見れば、全ての指を気持ち悪いくらい素早く動かしていた。

 由井が誰かから彼女を奪うことも意外だが、由井以外にもつぐみに惚れる物好きがいたことが同じくらい驚きだった。

 俺が絶句していると、由井は気持ち悪いくらい素早く動かしていた指を止めた。ゆらりと上半身を起こし、眼鏡を外して目をこする。

「自分のしたこと正当化する気もおまえを擁護する気もないけど、どうにもならないときだってあるんじゃないの」

「……どうにもならなかったんだ」

「ならなかった。もしつぐみの彼氏がモトだったとしても、諦めついた自信はない」

「そこは……そっか」

 諦めてくれ、とは言えなかった。まさに今体感している最中なのだ。

「そんなに……いい女、かなあ」

「あのタイプはなかなかいないじゃん」

「まあ……うん。俺は全然タイプじゃないけどな。悪いけど」

「タイプだって言われた方が困る」

「確かに。……つぐみのことそんなに好きだったんだ」

「今さら知ったの」

「いや知ってたけど、想像を絶してた」

 再び眼鏡をかけた由井は、まるでそこにつぐみの顔を思い浮かべるように天井を見上げた。

「めちゃくちゃ好きだよ。だからどうしても諦められなかったし、今もこれからもずっと一緒にいたい。それだけ」

 まさか由井に諭されるとは思わなかった。

 俺はのんちゃんのことが好きで、簡単には諦められなくて、そばにいたい。ただそれだけだったのだ。

 欲を言えば、もう少しだけでいいから、幸せそうな姿を見せてほしい。

「……おまえ、つぐみがいなくても普通に喋れるんだな」

「いつも喋ってるじゃん」

 何言ってんの?という顔をした由井は、また寝そべってスマホゲームを再開した。