大学に友達がいないのは当たり前だ。そもそも大学など通っていないのだから。地下鉄で一度も見かけたことがないのだって、ありえないことではないが不自然ではある。

「なんで椿女子に通ってるなんて嘘ついてたの?」

 いくつも浮かんでくる質問の中から、一番気になっていることを問う。

 だけど彼女は答えることなく、逡巡するように口をつぐんでから再び俺を見た。

「慶にはまだ黙っててくれないかな」

「まだって何? ほんとにどういうこと? 何がどうなってんの? ていうか、黙っててって……のんちゃんさ、最近ちょっと忘れてない? 俺そもそも慶の友達なんだけど。べつにのんちゃんの味方ってわけじゃないんだよ」

「モト君は言わないよ。絶対に」

「ずいぶん信用してくれてるんだね」

「それもあるけど。面倒なこと、大嫌いでしょ?」

 この期に及んで冗談めいた言い方をする彼女に、初めて苛立った。今は冗談に付き合っているほど余裕がない。

 それを察したのか、のんちゃんは目を泳がせて俯いた。

「……っていうのは、冗談で。ごめん、そうじゃなくて」

 再び顔を上げた彼女は、懇願するような目で俺を見た。

「お願い。モト君にはいつか絶対に全部話すから」

 この日から始まった慶への長い長い三つ目の秘密は、一つにまとめてしまっていいだろう。

 俺は知っていた。
 彼女の嘘も、秘密も、目的も、全て。