モト君が言ったことは正解だった。

 ──幸せそうって思ったことないよ。

 うん、そうだよ。全然幸せなんかじゃない。そんな気持ちはとうに消えてしまった。

 慶の言うことだって、ある意味正解だ。

 ──なんなんだよおまえ、意味わかんねえ。

 わからないだろうね。自分でも何やってるんだろうって思うもん。

 慶の怒りのスイッチは理解できないけれど、私にむかつくのも無理はない。私だって、こんなことはもう終わりにしてしまいたい。

 私と慶は喧嘩ばかりだけれど、私次第で穏やかに過ごせることはわかっていた。ただし無条件じゃない。慶の機嫌をとらなきゃいけない。

 家事をして、パチンコについて行って、体を捧げる。たまについて行かないときは、ご飯を作って大人しく待つ。慶の理想通りに動くことが最低条件。

 頭ではわかっていても簡単なことではない。
 私は人形じゃなく、感情が備わっている人間なのだから。

「ちょっとパチ屋行かない?」

 十一月最初の土曜日、昼過ぎに起きた慶が言った。
 ちなみに今日は私の誕生日である。

「パチ屋って……パチンコ?」
「他に何があるんだよ」

 私がボケをかましたとでも思ったのか、慶は可笑しそうに笑った。

「今日イベントでアツイんだよ。みんなも行ってると思うしさ」

 そんなことは訊いていない。黙り込む私を見て、何が楽しいのか慶はまた笑う。

「ちょっとだけだからさ。おまえも来いよ。誕生日に一人で待ってんの寂しいだろ?」

 べつに寂しくはないけれど、誕生日にパチンコなんか連れて行こうとする自分自身に疑問は持たないのだろうか?

 慶はけっこうイベント好きだ。今日だって、ちょうど土曜日だから出かけようと言ったのは慶だった。当日に慶の機嫌と気分次第で予定が左右されることは珍しくないけれど。

「出かけようって言ったの慶じゃん」
「わかってるよ。だからちょっとだけっつってんだろ」

 逆ギレかよ。