「普通だよ。喧嘩したから別々に帰ってきたとかじゃないよ」

「そう。よかった……」

 今度は心底ほっとした顔をした。忙しい人だ。

 というか、顔を合わせるたびに同じやり取りしていて飽きないのだろうか。私ははっきり言ってうんざりしている。

 家の中はお父さんとお母さんだけで、お父さんの息子──私の義理のきょうだいは帰ってきていないみたいだった。

 彼は親同士が結婚したときすでに家を出ていて、卒業した今でも実家には戻らず一人で暮らしている。忙しいとは聞いているけれど、お盆くらいは帰ってくると思っていたのに。

 歪んでしまった私と違って真っ直ぐな彼は、この白々しい家族ごっこに耐えられないのだろう。私がこの家にいるときは余計に、どう接したらいいのかわからないのかもしれない。

 あるいは、私に遠慮しているのだろうか。私のことなんか気にせず、彼女を連れて帰ってくればいいのに。

 その方がお父さんとお母さんも喜ぶし、何も知らないだろう他人がいてくれればこの歪な空気も多少は和む。

「お風呂入っちゃっていい?」
「いいよ」

 お風呂場に向かおうとしたときスマホが鳴った。慶からだ。

〈いつ帰ってくんの?〉

 慶とは、花火大会の翌日に喧嘩をしてから話していない。

 謎の同時家出のあと、私は朝方に帰ってさっさとソファーで寝た。しばらくして起きると慶も布団で寝ていて、そのまま会話をすることなく慶は一人で帰省し、今に至る。

〈さっき帰ってきた〉
〈明日とか会う?〉

 会える?と送ってこないところが慶だと思った。恐るべきプライドの塊。

〈明日はちょっと忙しい〉

 今度は電話が来た。着信音がいつもよりけたたましく感じ、声を聞くまでもなくご立腹なのがわかった。

『何が忙しいの?』

 もしもし、すら待たずに慶が言った。

「友達と遊ぶ約束してるから」

 本当だった。せっかく帰省しているのだから友達に会いたい。札幌に友達はいないから──作らないようにしている、と言った方が正しいけれど──正直けっこう寂しい。

 だからなんだかんだ私のことを構ってくれるモト君の存在はありがたかった。モト君がいなければ、私はもうとっくに限界を迎えていたかもしれないと思うくらいに。

『他の日は?』

「他の子たちとも約束してるからわからない」

『なんだよそれ。ほんと自分のことしか考えてねえな』

 否定はしないけれど、自分のことしか考えていないのは慶だって同じだ。ただ私が慶以外の誰かを優先するのが気に入らないだけのくせに。