花火大会の二日後、慶は先に地元へ帰省した。二週間ほど遅れて私も五ヶ月ぶりに実家へ帰った。

 といっても、実家という感覚は未だにない。居住歴二年半のこの家は、もともとお父さんと息子が二人で住んでいて、結婚したタイミングで私とお母さんが越してきた。

 豪邸とまではいかなくとも、近所の家に比べてひときわ大きなこの家にはなかなか馴染めない。私にとっての実家は、やっぱりお母さんと二人で暮らしていた狭いアパートなのだ。

 たとえ母娘の思い出なんてものがほとんどなくても、寂しかった記憶しかなくても。

 それでも札幌の家よりは居心地がよかった。つまり、向こうの居心地が最悪すぎるのだろう。

「ただいま」

 広い玄関を抜けてリビングのドアを開けると、食後のひとときをのんびり過ごしていたのだろうお父さんとお母さんは、まるで幽霊でも出たみたいに目を見張った。帰ると連絡していなかったから当然だけれど、それにしても、だ。

 一年前のあの日から私への態度を変えたのは慶だけじゃない。といっても家族は慶みたいに邪険に扱うではなく、むしろ腫れ物に触るみたいな扱いだ。

「おかえり」

 気まずい空気を打ち破るように、二人がぎこちない笑みを浮かべた。

 ソファーから立ち上がったお母さんが私に歩み寄る。お父さんはすぐさまテレビに視線を戻し、見入っているふりをして動かない。これが、まだ父娘歴たったの二年半である私たちの距離だ。

 私自身、幼い頃からずっと母子家庭だったせいで〝お父さん〟との接し方がよくわからないから、挨拶くらいしかしてこないお父さんに正直助かってもいる。

 私は〝お父さん〟を知らない。覚えていないのではなく知らないのだ。モト君には「再婚」と説明したけれど、お母さんは未婚で私を産んだらしかった。だから正確に言えば再婚ではなく初婚。

 ちょっとややこしいし急にそんな話をされても反応に困るだろうから「再婚」と言っておいた。

 お父さんのことを子供の頃に訊いてみたら、お母さんは悲しそうに笑んで「ごめんね」と言うだけだった。お父さんの話は禁句なのだと幼心に察した私は、それ以降訊かないことにした。ただただ、お母さんを悲しませたくなかった。

「帰ってくるなら連絡しなさいよ。ご飯作ろうか」
「食べてきたから大丈夫」
「慶くんと?」
「ううん。一人で帰ってきたから、適当に」

 お母さんの顔が微妙に強張ったのを、私は見逃さなかった。

「慶くんとは……仲良くやってるの?」