長期連休に入ると、俺の生活は一変して静かになる。久しぶりに訪れた一人の時間を存分に満喫するべくゲームに熱中していた。寂しさは感じない。俺は本来静かな方が好きなのだ。

 あっという間に夜が更け、コントローラーを置いて眉間をマッサージする。続けるかやめるか悩み、どうせ明日も暇なのでもう少し続けることにした。

 と、その前に、充満している煙草の煙を開放するため窓を開けたとき、

「のんちゃん?」

 ふらふらと歩いている後ろ姿に思わず声をかけると、のんちゃんは肩を跳ねさせてこちらを向いた。

 風呂上がりなのだろう。いつもより顔が薄く髪もストレートで、おまけに襟元がパッカーンと開いた大きめのTシャツに太もも丸出しの短パンという露出度高めの部屋着姿だ。

 つまり夜道を一人で歩くにはとてつもなく危険な状態である。

「モト君、どうしたの?」
「こっちの台詞だよ。どこ行くの?」
「……噴水、見たくなって」

 意味がわからない。

 噴水がある場所など歩いて行ける範囲では思いつかないし、あったとしてもすでに一時を過ぎている。見に行ったところでただの水溜まりだ。

 困惑している俺に、のんちゃんは「なんでもない」とぎこちなく微笑んだ。

「こんな時間に歩いてたら危ないって。しかもそんな恰好で」

 下を向いて自分の服装を確認したのんちゃんは、今気付いたかのように「ほんとだ」と笑った。

「んー、じゃあモト君ち入れてよ」
「はい?」

 どう考えても様子が変だった。

 ──モト君は、優しいよ。

 あの日以来、なんとなくこれ以上のんちゃんと関わってはいけないような気がしていた。