美莉愛は大企業の社長令嬢で、自由な恋愛が赦される立場ではなかった。いずれは父親が用意した相手と婚約し、結婚する。

 それは生まれたときから決まっていることなのだと、そしてとうとうその日が来てしまったのだと、美莉愛はオレの胸で涙を流していた。

 ──ほんとは慶と一緒にいたい。だけど……パパを悲しませるのも、同じくらい辛いの。

 美莉愛に親を裏切るような真似をさせるわけにはいかなかった。父さんと母さんを悲しませたくない気持ちは痛いほどわかる。もしオレが同じ立場だとしても、美莉愛と同じ決断をしたかもしれない。

 ──わかった。オレは大丈夫だから、絶対に幸せになれよ。

 ──けど、もし辛いこととかあったら頼ってよ。美莉愛が辛いときは絶対一人にさせないから。

 オレたちは一緒に泣きながらそう約束を交わし、〝友達〟でいる決意をした。

 すぐに美莉愛は父親が用意した男と付き合い始めた。想像を絶するほどショックだったけど、今後は友達として美莉愛を支える。美莉愛を守る。そう自分に誓った。

 それからも美莉愛は度々オレに連絡をしてきたり、気まぐれに突然麻生まで訪ねてきたりするようになった。

 ただ話を聞いてやるだけ。後ろめたいようなことは何一つしていない。オレたちは友達だ。だから、たとえ元カノだろうとのんにとやかく言われる筋合いはない。

「大丈夫だよ。美莉愛のこと嫌いになる男なんか絶対いないって」

『ありがとう、慶。……ごめんね。慶だって今はもう彼女がいるのに、いつまでも慶に頼ってちゃだめだってわかってるんだけど』

「オレのことは気にしなくていいから。けど……」

 電話口で美莉愛が泣いているのがわかった。

 友達でいることを決意した日の涙を思い出し、鼻の奥がつんと痛む。

 車の天井を見上げて、大きく息を吸った。

「いい加減、幸せになってよ。──じゃないと、いつまでも美莉愛のこと忘れられない」