花火大会の日はのんちゃんとデートの予定だと言っていたのに、慶は突如パチンコ屋に現れた。

 聞けば、まだのんちゃんの準備に時間がかかるから暇つぶしに来たらしい。確かに女の子の準備は長いので、なるほど、とだけ返して再び打っていると、しばらくしてスマホが鳴った。

 須賀あたりだろうと予想して画面を見た俺は、思わず「なんで?」とひとりごちた。相手は、ちゃっかり連絡先を交換していたのんちゃんだった。メッセージが来たのは初めてだ。

〈慶と一緒?〉
〈一緒だよ〉
〈わかった。ありがとう〉

 俺はよくわからなかったが、スタンプだけ返してスマホをポケットにしまった。

 待ち合わせ時間に間に合うよう十七時頃にパチンコをやめて席を立つ。いつもつるんでいるメンバーのうち、須賀をはじめバイトも何もない暇人数人で祭りに行く約束をしていた。

 人混みは得意じゃないが、円満な大学生活を送るにはこういう付き合いも必要である。

 慶もちょうど店を出るところだったので、のんちゃんと合流し、ちょうど鉢合わせた由井とつぐみも一緒に会場まで行くことになった。

 あまり機嫌がよろしくないらしいのんちゃんは(昼間に喧嘩でもしたのだろうか)、地下鉄でつぐみと話しているうちに笑顔を見せるようになっていた。

 ほっとしつつ会場に着き、由井とつぐみはすぐさま俺たちのもとを去ったが、慶とのんちゃんが別行動することはなかった。

 暇人が集合し、屋台で買った食べ物や酒を手に打ち上げ開始を待っていたとき、

「わり、俺ちょっと抜ける」

 のんちゃんを挟んで俺の左側に座っていた慶が、短く鳴ったスマホを確認してすぐに立ち上がった。

「なんで? どこ行くの?」
「友達から連絡来た」
「……誰?」
「だから友達だって」

 のんちゃんと慶の会話に妙な既視感を覚えた。

 いつだったか、同じやり取りを俺と慶でしたことがあったような気がする。

 記憶を掘り起こしているうちに、のんちゃんの顔がどんどん曇っていく。

「行かないで」

 のんちゃんが言った。聞いたことのない声音、そして見たことのない切迫した表情。

 驚いているのは俺たちだけではなく、慶も目を丸くしてのんちゃんを見た。

「行っちゃだめ」
「は? なんでだよ」
「べつに慶が行かなくたっていいじゃん」
「何言ってんだよおまえ。意味わかんねえ」